この夜が明けるまであと百万の祈り

とあるマンガ好きの備忘録です。私が元気づけられた出来事や作品について少しでも共有できたら嬉しいです

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「千年万年りんごの子」「地上はポケットの中の庭」 感想

サクリファイス…ふっとそういう言葉が降りてきた。
世界は未だこわれない なぜなら神への供物が捧げられているから。
壊れ続ける    の世界へ捧げられた供物
壊れ続ける    の世界に捧げられた彼自身の身体
神は生贄を欲しがっている なぜなら、神の世界もまた壊れ続けているから
(「残酷な神が支配する」17巻)

世界を守る・維持するための「犠牲(サクリファイス)」のお話。
神へ、生贄・供物として捧げられる少女と、
その少女を愛する存在がその不条理をどううけとめ、
どう行動するかの選択をつきつけられる選択を扱う類型。


「黙れ小僧、お前になんとかが救えるか」的な話。

関連作品は
AIR」「銀色」「fate stay/night Hevean's feel編」「穢翼のユースティア
君が呼ぶ、メギドの丘で」「キラ☆キラ」「グリザイアの楽園」
凪のあすから」「魔法戦士レイアース」「魔法少女まどか☆マギカ
残酷な神が支配する」「ミノタウロスの皿」「新世界より」など。

たぶん言い出すときりがないくらいたくさんある。その中にまたひとつ傑作が。



こういう作品では、主人公が強い意志を持って、決断しなければならない。
残酷な世界と抗い戦うか、残酷な世界のルールを受け入れるか。 


ではこの主人公はそういう選択ができる強い意志を持つ人間だろうか。
その強い意思はどこから生まれてくるのか。


少なくとも物語が始まった時点の主人公にはそういう強い意志はなかった。
この作品の主人公は、親に捨てられ、いとこに育てられたという境遇ゆえに
自分に自信を持つことができず、自分の意思を表にだすことができない引っ込み思案な性格だった。
彼氏彼女の事情の有馬くんみたいな感じね)
この村に来たのも、その村で結婚をしたのも自分の積極的な意思ではなかった。

しかし、嫁の「朝日」は最初こそ無愛想な印象だったが
彼女と接するうちに、彼女から大事に思われていることだけは確信できるようになっていく。
そうやって自信を持ち、彼も初めて人を愛するという感情を知っていく。
そうやって相思相愛になりかけた頃、彼女は神に選ばれ、「あちらの世界」に連れて行かれることになる。


「いやだ そんなのは御免だ!
 なぜもっと怒らない!?なぜこんなものをうけいれてしまう
 この祭文にも、祝福なくともとある
 見返り無くただ生きる我々がなぜ奪われるんだ」

「我々は、贖いきれない祝福の業火の中生きておるのよ
 あぎらめろ 相手はあまりに大きい
 決まったものを動かさばさらにむごいことさなる」

物語がはじまった時点の彼だったら、きっと頭をうなだれて
そのまま定めを受け入れていただろう。


しかし、彼にとって「朝日」はもはや欠かしては生きていけないほど大事な存在であった。
今まで強い感情をもったこと自体少なかった彼は、
今まで経験したことがない、得体の知れない衝動に突き動かされながら
彼女を神から取り戻すために、神の支配する世界へ単身飛び込んでいく。



僕は、生まれて初めて心と行動がただただまっすぐ完璧に
同調する実感を得ていた
これは「怒り」だ すべてを滅する「怒り」

何を犠牲にしても君に生きていていほしいと願ってしまった
僕は鬼畜生なんだよ

留まる力と 変わる力 
それでも すべてのものは無慈悲に終わる
小さな欠片によって

朝日 君だけが確かだ

障害を乗り越え、世界の深奥で、彼は神に連れ去られた「朝日」と再び出会う。
そして・・・という感じ。ラストは是非自分で確認してみてほしいです。



類型としては非常にオーソドックスなのだけれど、
それでもこの作品は素晴らしい作品だと思います。


①「朝日」がめちゃくちゃ可愛い愛おしい。
 彼女との関係が少しずつ深まっていくところがすごい丁寧に描かれていて悶える。
 無愛想に見えていた彼女が少しずつ心を開いて見せてくれて、
 照れた表情を見せてくれるところとかたまらんです。


②「朝日」が奪われていく過程が切なくて胸を抉る
 彼と彼女の間では心が通じあっているのに、
 彼女は彼を大切に思うがゆえに突き放し、
 もともと自分に自信を持てない主人公は、一度は諦めかけてしまう。
 そのお互いのもどかしい距離感がたまらんです


③主人公の変身ぶりが熱い
 彼女が耐えて耐えて、ついにぽつっと漏らした一言から
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 主人公は人が変わったように行動的になる。
 その変身ぶりがめっちゃ格好良いです。


④美しい絵によって表現される世界観が素晴らしい
 口で上手く言えないんだけれど、
 上のコマのような心理描写だけでなく、背景なども美しい。
 めちゃくちゃ緻密に書き込んでるわけじゃないのに
 少ない線で、すごく多くのことを表現されてる感じ。
 そうやって描かれる世界や社会ごと好きになるが故に、
 それを敵に回す時の恐ろしさがまた真に迫ってきます



という感じで3巻と短く、さくっと読める作品ですが、フルパッケージのerg作品を1つプレイしたくらいのずっしりした読後感を味わうことが出来ました。すばら。



ちなみに、本編ではギリギリ涙をこらえられたのですが、本編後の「主人公の幼少期」のエピソードをみて我慢できず泣いてしまった…




おまけ

短篇集「地上はポケットの中の庭」でも、「千年万年りんごの子」の主人公のように、親に捨てられてしまったことで自分の幸せと、それが長く続くことが信じられない男性が出てきます。

この作者さんの根源は、こういうところにあるのかな。「人間にとって、本当に信じるにたるものはなにか」という。だとすると、次回作以降もすごく楽しみです。