この夜が明けるまであと百万の祈り

とあるマンガ好きの備忘録です。私が元気づけられた出来事や作品について少しでも共有できたら嬉しいです。 ※記事を読まずにはてなスターを押して回る行為はお断りしております。

【スポンサーリンク】

ワンピースについて語る際に最低限押さえておきたいこと

少年漫画に見られる女体化すれば馬鹿になる表現と女性キャラの性的消費 - Togetterまとめ
私個人の意見としてはワンピースのジェンダー観嫌いです。
丁寧に批判がされるといいなと思ってます。

その上で上記記事の批判は乱暴というか、あんまりフェアじゃないというか、正直もうちょっといろいろ踏まえて語れよ、という気がしたので、「批判するにも最低限必要な知識あるだろ」ということで、それについて書いてくれてる人の発言を紹介したいと思います



「こういう属性の人間キモい!」を描くことを目的にしているわけではないよね

http://togetter.com/li/763758#c1729684
ワンピ好きですが「日本の商業マンガ界のPC意識が総じてなっちょらん」という総体的な感想については同意だし、また尾田先生個人の男子ロッカー室ヘテロセクシズム的な感性についてはファンとしても否定し難い。それがいちばん悪い方に出てしまっているのは「ノンケを襲うオカマ」ステレオタイプだと思う。「性的マイノリティ=セックス狂い」系ジョーク?はまんま深刻なホモフォビアと直結しているゆえこれはさすがに「冗談では済まされない」と思う。発行部数=影響力の大きさを考えるとこういう部分への批判が「読んでない人たち」から来てしまうことさえ、致し方ないと思う。


大筋では同意した上で個別のポイントについて。ルフィはアルビダをブサイク(実際のセリフはいかついおばさん?)と呼ぶが、美しくなったアルビダにも実は無反応。ルフィ(というか基本的には麦わらの一味全員)はブサイクだからという理由で誰かの人格まで貶すことも、美しいから持ち上げることもしない。


①「こいつすげーブサイクだギャハハ/オカマきもいギャハハ」という偏見をそのまま戯画化したようなデザインをぶつける一方
②主人公サイドはその差別の価値観に乗らない。また、尾田氏は
③「奇形キャラ/きもキャラにものすごく格好の良いセリフや見せ場を与える」という、ギャップ効果を狙った演出を常套手段的に使う



ローラ船長はこの典型で、①「酷すぎる造形+結婚したがるブサイク」という最悪にステレオタイプなキャラづけであると同時に、②&③「義理堅く勇敢で、部下たちの信望も厚い船長」でもある。①読者は彼女を笑う(=笑ってくれ、と言わんばかりの造形)が、②作中人物たちの反応は違う。



強調するが、
現代のPC感覚的に①の時点でアウトだと思う人がいるのは当たり前。カマーランドのキャラ(インペルダウンのNCLはともかく、とくにサンジを追いかけてた人たち)が、文脈的にも造形的にも、初見で「キャハハおかまキモい」という反応を読者から引き出す設計だった、というのは否定できないと思う(読み進めると読者の第一印象が変わるようにも設計されてる、という点は別にしても)(完全に主観に寄るところなので議論はしないが)


で、ぼく自身、②&③の点(具体的には脱獄編のボンクレーやイワンコフ)にぎりぎり救われている部分はある。それが時代遅れな、それこそ「弱いものをいじめてはいけない」レベルの稚拙な倫理観に基づいていたとしても。尾田氏に批判されるべきとこは多々あれど、一応そこに言及しない人格非難はフェアではないと思ったので一言。ぼく個人の趣向としても「かっこ悪いキャラが誰よりもかっこよく輝く瞬間」というのが大好物で、一番好きなキャラがダダンだったりするので、一概に「きもい造形の女性」自体を否定したくは無いというのも正直なところ。

ここは最低限、押さえておきたいかな、と。
とはいえ「あとでフォローしてるから良いじゃないか」とかいうつもりは全くないです。

なぜかというと、「フォローされないオカマは気持ち悪いという扱いのままでいいのか」とか
「いいやつもいるとして、オカマが基本的に気持ち悪いという描かれ方は変わってないじゃないか」
という問題がそのまんまだからです。
作品に通底するジェンダー観やその描き方にはれっきとして問題有る、と私も思う。

でも、一応批判する人はちゃんとこのあたり踏まえた上で語ってほしいな、と。




ジェンダーの問題はもちろんのこと、「海賊中心という独自の世界観」の影響も相当強いと思う。

https://twitter.com/kaneda_junko/status/550086298212368384 
これはウソップというキャラを考えてみると分かり易いのだけど、彼は男性だが役割は後方支援、ストーリー的にも基本的に(少なくともナミと同程度の頻度で)助けられる側。これはジェンダーよりむしろ「腕っ節」の問題。ワンピの「どれだけ正しくとも、どれだけ苦しんでも、力が無い者は負ける」という世界観は、ごく初期から徹底している

初期一味の中でも群を抜いて酷い苦しみを耐えてきたナミの精神を「弱い」と認識する人はいないと思うが、ナミはアーロンを倒せる力が無い、ただそれだけの理由で敗北する。なお「お前を倒せる」とその世界観を途中まで引っ張ってきたルフィ自身、戦争編の最後で自分でその辛酸を舐める。蛇足だが、ハンコックは単純に戦闘力が高いという理由で、女性ステレオタイプてんこ盛りの内面とは関係なく、普通に第一線で戦う。

ここもやはり考慮されないとダメだと思う。

つまり、世界観が現代とはかなり違う。
フィクションの世界観に照らして、妥当なところは妥当、そうでないところがダメだ、という切り分けはされてほしいな、と。

繰り返しますが、だからといってワンピにおける作品のジェンダー観および描き方が全く問題なしだとは言えないと思っていますが。



ワンピースの面白さと不愉快さは、かなり近い場所に同居しているから難しい

ワンピースは、嫌いな人はすごく嫌いだと思います。

何に対して特別に不快感を感じるかというと、描かれている内容そのものより「描き方」ですよね。いろんなものの特徴といえば聞こえはいいですが「偏見」とか「ステレオタイプ」を、極端に際立たせて描く手法によるところが大きいのかな、と。

正直、私は「進撃の巨人」がジェンダーに特別に配慮された作品だとはあんまり思わないです。目立たないだけで、作品中に女性差別は大いにありそだし、そこらへん見過ごしてどうすんの?って思う。活躍してる女の人おおいやん、とかそういう話ならワンピースだって同じだろ、って思う。それでもなお、ワンピースを殊更に叩きたくなるのは、やっぱり描写の力によるんじゃないかな、と思います。



とにかく絵の説得力がすごい。「このキャラにどういうイメージをもたせようとしてるのか」がひと目でわかってしまう。
ただしこの絵の説得力が曲者で。プラスに描かれるものはいいとして、マイナスっぽく描かれたらすごいマイナスに見える。オカマの島でサンジを追いかける男たちの描写をみたら、「(このセカイでは)オカマはすごく気持ち悪い生き物だ」として描かれているのが露骨に伝わる。
その後で、その気持ち悪い生き物が格好良く見えるようにストーリーは展開するとしても、最初に「そういうもの」として描かれるのは不愉快でしょう。そもそも読んだ人全員が、ちゃんとそのフォローを理解できるのか、という問題もある。しかも、「内面」への印象は変わっても、「外見」の描写が気持ち悪いままであることは変わりない。ボン・クレーはやっぱりいつ見ても気持ち悪いと感じる。つまり、オカマは気持ち悪いという気持ちは残り続けてしまう。

だから、最初からそんなに気持ち悪く描かなければいいじゃないか、という話は当然でてくると思う。ただし、なんだかんだいってこの「極端すぎるほどのデフォルメ」こそがワンピースの圧倒的な面白さ、わかりやすさにつながっている以上、ここを殺しちゃうと、作品自体つまらなくなってしまいそうです。問題はジェンダーに限った話ではなく「読者の感情の振れ幅を作るためとはいえ、こうやっていちいち色んな人たちを極端に変な存在として描くのは許されるのか」という描き方の問題になってくるわけですね。

これにたいして、「そういう外見や振る舞いへの差別意識を持ってるのはオマエらであって、作者は彼らのことを素晴らしい人間として描いているしそれでいいじゃないか。外見や振る舞いで差別するな」というべきなのでしょうか。それとも、「現代が舞台の作品なんだからこういうやつがいてもおかしくないだろう?批判は見当違いだ」というべきなんでしょうか。






以下余談。
さて、どっちつかずで申し訳ないんですが、私は擁護したいわけではないし、かといって否定したいわけでもないんです。

①批判されるべきところは批判されるべきである
②その批判は丁寧にされるべきである
③その批判を受け止めるかどうかは作者次第である

という立場です。

問題があることは私も同意するのですが、かといって乱暴に批判して「オカマやゲイなどのマイノリティ」の話自体描くことがタブーになってしまう、彼ら彼女らが不可触民みたいになるのも絶対違うと思うんですよね。尾田先生が、こういう描き方したら文句言ってくることはわかってて、それでも描くのを避けて通らなかった、ってところは「めんどくさいから書かない」よりはいいことかもしれないわけですから。とはいえ、ワンピースで描くとどうしてもこうなってしまうことは避けられない。「細かい配慮はしない」どころか「むしろわざとらしく際立たせて描く」ところがワンピース流なわけですから。結局どうしたらええんや……。「不快感を感じる」程度の話しか出来ないんじゃないかな、と。勇んで書き始めたものの、結論が出ない…。そういうわけで、結論は…ないです。みなさんも一緒に考えてくださると嬉しいです。

私がこの記事で一番言いたかったことは「わかりやすく自分が気に入らないところだけを取り上げて叩くだけの言説は、ただの藁人形論法という詭弁であって、批判と呼ぶに値しない」ということの方です。これはワンピースの話題に限らない。なにかを批判するなら、もうちょい丁寧に取り組んで欲しい、ってそれだけです。自分が乱暴な理屈で嫌いなものを叩いて、それで叩き返されたら逆ギレするような人の話はまじめに聞こうと思えないです。(とはいえ、このtogetter、元々はただの内輪でのグチ合戦にすぎないんですよね…。そういう所まであんまり厳しくするのは自分の首絞めそうで怖い…)



ワンピースと暴力と男女の非対称 - Togetterまとめ
ツイッターでも書きましたが、ワンピースで男女格差がーっていう人の気持はすごくわかるので、そういう人は一度「モーレツ!宇宙海賊」みてみると幸せになれるんじゃないでしょーか。「海賊」だけど艦長は女性。基本電子戦で、勝利条件も殺しあいじゃない。そういう世界だと腕っ節より頭脳勝負。そういう世界だと男女均等に活躍しとりますよ。
「海賊だから殺し合いしなきゃいけない」とか「こうしないと面白い作品作れない」というわけじゃないのは確かです。というか、そういう諸々の話抜きで私がこの作品すごく面白いと思ってて好きなのでオススメしておおきます。


輸入盤は結構お安い!