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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「女王の花」9巻  幸せの王子において、王子を見送ったツバメはどんな気持ちだったのか

俺たち胡人は所詮よそびとだ。まともに扱っちゃもらえない。だが、そんな胡人の奴隷が好きな女を助けたいってだけで強くなり、女王の最愛の将軍まで出世する夢の様な話が本当にあるのなら見てみたいって思うぜ。

あなたは私のことを「失敗しようと所詮人事」だと言ったわね。私は、常に失敗したら人が死ぬ、そういう道を歩いてきた。気楽な決断などただの一つもなかったわ。私は天才ではない。けれど、経験と努力が天才をも超えるのを見せてあげる

女王の花」はよくある貴種流離譚ものなのだけれど面白い。

主人公の女性が、過酷な運命のもとで大事なものを失っていきながらも着実に力をつけていき、最終的に王としてのしあがっていくというお話。「マギ」においてソロモン王が誕生する話と同じく、「王」という地位にまつわる苦悩や孤独と、避けられない血みどろの争いが描かれている。

そんなわけで主人公は女の子とそれに付き従う従者なのだけれど、今回はそれとは別の他国の王子様の話。



幸せの王子

「曾の国」に嫁いだ「土の国」の妃の子として生まれた王子。当初は第一王子として誕生し、将来も期待されたが「曾の国」と「土の国」は断絶し、王子は母子共々宮廷での地位を失い、幽閉同然の境遇を強いられる。高貴な王子として生まれたものの、何一つ望まず人が彼からいろんなものを奪っていくのを淡々と受け入れていた。青年になったころ、母はすでに病死し王は従者もない屋敷で一人孤独に過ごしていた。後継者争いのためいつ殺されてもおかしくないし、本人もその日がくることを覚悟していた。

私は籠の鳥だった。羽ばたかずただひっそり生き、死んでゆく。それがこの曾国に王位争いという内乱を起こさせない私なりの忠義の道だと信じた。今でもそう信じている。愚かに見えるだろうが、私はこの国の第一王子だ。この国を害するものにだけはなりたくない。それが役立たずの王子だった私の、最後に残された挟持だ

そんなある日、庭先に美しい娘がやって来る。娘は第二王子からの暗殺者だった。ついに自分が殺される日が来たのだ。王子はそれを受け入れる覚悟ができていた。

だが、その暗殺者はどういうわけか記憶を失っていた。そこで、王子は気紛れにその美しい娘の世話をすることにした。それがつかの間の話だとはわかっていたが、ずっと孤独に生きてきた王子には楽しい日々だった。記憶を失ってはいたが、暗殺者の娘にも悪くない日々だった。

しかし、ある日娘は暗殺者としての記憶を取り戻す。殺さなければ自分が殺される。しかし王子を殺したくはない。そうなやむ娘に、王子は自分の命を捧げると言い出す。

でも、お前が現れてほんの束の間だったけれど楽しかった。幸せだった。そして夢を見ることができたんだ。私は羽撃くことは出来なくても、この美しい生き物を自由にしてあげることはできるのじゃないかって。

(かつてFFタクティクスのウィユヴェールプレイしたことある人間としては、めちゃくちゃ思うところあるんだけど作者さんはプレイしたことあるのかな?)



王子は、娘が自分を殺した後、暗殺者という役割から自由になれる算段までつけていた。国のために自分の人生のすべてを捧げた王子は、最後に残された自分の命も娘に授けようとした。ひとことも「死にたくない」とはいわなかった。笑って死を受け入れようとしていた。

私は幸せものだ。この広い天地で、最後に私の為に泣いてくれるものに巡り会えた。もう、十分だ。

……ここで終わって、その後暗殺者の娘が後を追ったりしていたら「幸せの王子」だったのかな、と思う。実際に、この作品1巻では似たような設定のお姫様(=主人公の母親)が自死を選び部下は姫を思うがゆえに涙ながらにその選択をただ見届ける。しかし「ツバメ」的ポジションだった男も後に後を追う。そういう悲しい展開があります。



避けがたい王子の運命を、ツバメが命をかけて覆す

しかし、この作品では暗殺者のツバメさんブチギレ。

だめだ。死なせないぞ。お前は嘘つきだ。こんな終わりが幸せなはずがない。
お前の意に反してもきっとこの先私がそばにいることをもう幸せだと呼んでくれなくても
構わない。お前を生かすためなら構わない。

いろいろえげつない手を使って王子を死んだことにしつつ、王子をかくまってしまった。この行為によって国の勢力が2つに割れることになったけど、そんなことはツバメにはどうでも良かった。こうして二人は世から姿を消した。

王子にな。問うてみたんだ。私か国か選べ、と。当然王子は国を選んだよ。だが、答えるのに少しだが躊躇したんだ。ほんの一瞬だったけど。その間は私だけのものだ。王子が私の事だけを考えた。その一瞬を永遠に胸に閉まって私は生きていける。たとえこの先、別れの時が来ても構わないんだ。王子が生きていてくれるなら

「山にこもってから、君はいつもどこか申し訳無さそうで遠慮がちだった。私に負い目を感じて悲しそうだった。この国の争いに巻き込んで詫びなければならないのは私の方だったのに。とうとうお前を自由にしてあげられなかった。お前が傍にいてくれることが心地よすぎて、どうしても離れろとは言えなかった。でも、もういいんだ。今日ですべてが終わる。今度こそ自由におなり」
「馬鹿やろう。私はとっくに自由だ。私は自分が望んだように生きた。私はとっくに幸せだった。あんたと一緒にいる時が私の幸せだった。」

最終的には、再び戦乱に巻き込まれ、王子は危機に陥るが、ツバメが自分の身を犠牲にして王子を生かす。この展開は切ないけど好き。 ツバメにだって意志がある。王子の気持を理解しつつも、自分が好きな王子に死んでほしくなかった。そうやって王子の意志に反しても自分の意思で行動したというところが胸をうつものがありました。彼女の行為は国家視点で見ると国を一時的に混乱に陥れるダメな行為だったかもしれませんが、まわりまわってツバメによって生かされた王子がついに生きる意志を持って国のために立ち上がるシーンもすごく良い。




こんなかんじで厳しい運命に抗いつつも途中で力尽きていく人が描かれたりとシビアな展開が多い作品ですが、少女漫画らしくちゃんと恋愛要素もありとても見ごたえあり。放浪しながらヨナ様無双でズバズバ問題を解決していく「暁のヨナ」と比べるとこちらの「女王の花」はいろいろと重たいものを背負いつつそれでも一歩ずつ着実に前進していくというかたちで結構読んでてしんどいのだけれど、その分面白いです。