4巻まで読みました。
26歳コスプレヤーの女性が主人公の話。コスプレイヤーとしては「ベテラン」であり「意識高い」人間でもある。完璧主義者で、衣装にも手を抜かないし、ポージングの教室にも通うほど真剣。真剣なのはよいが、そのせいで純粋にコスプレを楽しむだけでは飽きたらず、己のコスプレに過剰な自負心をもち、それゆえに心に余裕がない。他人のコスプレに対しても不寛容な態度や厳しい言動が目立つ。
いわゆる「ガチ勢」です。この主人公のような「ガチ勢」にありがちなストイックな姿勢を魅力的と取るかうざいと取るかは相手次第でしょう。
ガチVSエンジョイという二元論が、「にわか」という言葉を使う人を生み出す - お前のことが好きやったんや
音ゲーのガチ勢とエンジョイ勢を隔てるもの、そして俺の葛藤 子供の落書き帳 Remix
この作品では最初他者理解を拒みつつ自分の理念を押し付けようとするような、極めてうざいキャラとして振舞っています。
そんな優しい人ばかりじゃないよ。私達のことを、まるで別の生き物みたいに見てくる人もいるのよ?わたしはそんな人達に自分の世界を汚されたくない。理解なんて必要ない。そうよ。違う土俵の人間に、親に、わざわざ教える必要なんて無い。私は自分が好きな自分でいるためにコスプレをしているんだから
そんな彼女も、理解者を得ることで、少しずつ穏やかさを獲得していく。
きっとわたしも、誰かの目にはああうつっていたのかもしれない。でも今は、キズつけてばかりとは思いたくない。一番ラッキーなのは私かな
今までは「どうせ私は理解されない」という思い込みのもと、「自分がコスプレ対象に誰よりも真剣に取り組んでいること」を免罪符に好き勝手に振舞っていた彼女が、心に余裕を取り戻し、その上で「自分は何のためにコスプレをするのか」とか「年齢的な限界」とどう向き合っていくか、そんな話になるのでしょう。
先に全体の感想を述べると
「作者の問題意識はわかるが、問題点とか悩みばかり描いてないで
もう少しコスプレの魅力について語ってほしいなぁ」に尽きます。
非常に興味深いテーマ故についつい欲張りたくなってしまう
ところでこの作品、最初は面白いなーと思って読んでいたのですが、面白いゆえに欲が出てきて2つほどどうしても不満に感じてしまいます。
①一つは冒頭で描いたもの。「コスプレそのものの魅力があんまり伝わらない」。作者にとってはコスプレの楽しさは大前提なのかもしれませんが、私としては、そんなにコスプレの魅力がわからないのです。
作品全体ではむしろ問題点ばかり一生懸命描いている。作者の人がコスプレイヤーで、自分の抱えていた問題点を作品内で解消したい、ということなのかもしれませんが、もう少しでいいから楽しそうな印象を与えてくれないだろうか。そうでないと、なで彼女がこんなにコスプレに依存してるのか、にあまり納得出来ないです。
楽しさがわからなくてしんどいことばかり強調されると、そんなめんどくさいだけならガチ勢なんかやめてエンジョイ勢くらいで続ければいいんじゃない?って思ってしまいますよ。
DDRガチ勢を目指すのを諦めて楽しくなったもの、辛くなったもの - この夜が明けるまであと百万の祈り
②もう一つは「主人公の行動や判断に全然納得がいかない」ということ。この作品の価値判断基準が全然納得行かないということです。心理描写について、作者の中で自己完結していて、こちらにちゃんとそれを納得させよう、って意思がないのではないかとすら思ってしまう。
たとえば作中で「主人公のコスプレという趣味を男が受け入れてくれるかどうか」という問題が提示されます。
この提示自体はとても興味深かった。問題そのものはちゃんと描写されていたと思う。しかし、その後どう答えをだすか、という部分であまりにあっさりと結論が描けれてそれで終わり。読者としては「???」って思いました。完全に肩透かしを喰らった感じです。演出も根拠もあまりにあっさりしすぎ、問題を単純化させすぎ。主人公自己完結しすぎ。
この問題に真剣に考えたわけではなく、単に「その男にたいして興味ない」「まだその問題について考えるべきではない」ということならいいんですがそういう感じの問題提起じゃなかったよね。
こんな感じで話投げ出したら話すすまんじゃん。3巻の帯に「人生の何%を趣味に捧げられますか」って書いてありましたけど、自分の知らない趣味がヘタしたら数十%超えてる人間なんていきなり受け入れられるわけ無いじゃん。
いきなり「私はコスプレのガチ勢です」って言われたらそんなん、男側は戸惑うに決まってるじゃん。それ別にコスプレ云々以前の問題じゃん。別の趣味でも同じじゃん。いきなり最初からそんな割合を受け入れてもらおうって。どんだけ相手に過大な要求してるかわかってんの?それで相手が受け入れてくれなかった、悲しいって。バカじゃないの?
それコスプレどうこう以前の問題にあんたのコミュニケーション能力というか他者不信が強すぎるだけじゃん。要は勇気がないんでしょ案件じゃん。私も勇気ないから気持ちはすごくよくわかるけどだからこそ期待していたので、この投げやり感は悲しかったです。
しかも、その前のエピソードで同じくコスプレイヤー(ゴスロリ系)だった母の悩みを聞いて、それでもやめずに続けるって言いはったわけじゃない。母に父がどんな感じで寄り添っていたかを聞いたわけじゃない。その上でこの主人公の取る行動はそれなのか、と。
「もうお母さん、やめろとは言わない。
でも、好きならちゃんと向き合いなさい」
これって、周りの人との接し方とかも含むと思うんだけど。違ったのかな。
結構続きにも期待してるのですが、しばらく様子見かな、と思いました。
追記
5巻で完結するそうです。
ようやくこれから話が膨らませてのかと思ったら、あっさり終わってしまうのか…。