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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「生ポ兄貴」   生活保護に「9項目目(恋愛扶助)」が存在する世界

本筋は極めてストレートな成長物語。冴えない主人公が、メンター的な存在との出会いを元にして己を鍛え、自分の壁を打ち破って、大事なものを手に入れる。そんな話。


だけど、素材が「生活保護」なので結構際どい。

この世に生まれた瞬間、お前たちは権利を持った。幸せになる権利だ。それは誰もが当たり前に認められたものだ。不幸になれ、なんて誰も思っちゃいねえんだよ。だが、この面倒臭え世の中だ。どうやってもうまくいかねえ時ってのは出てくる。だからこそ、この日本って国は、保障してくれてるんだ。人が人としてあたり雨に生きていくことが出来ますようにってな。祈りのように、助けあおうぜって言ってるんだ。それが生活保護だよ。

穿った見方をすれば、「シモネタという概念が存在しない退屈な世界」の対極のような設定で、この生活保護の基本概念を「恋愛」にまで発展させたことによって、人である以上みんな愛し愛されるだれかを見つけなさい、という「幸福は義務です」と隣合わせの世界に片足をツッコミかねない。


この作品は、うまいところギャグテイストに仕上げてくれていると思う。深刻になりすぎず、かといってご都合主義すぎない感じでバランスが取れてて読んでいて楽しかったです。



生活保護にある「文化的で最低限度の生活」に「人を愛し、愛される権利」も必要ではないかというお話


生活保護法

本来の生活保護は十一条にあるように
「生活扶助」「教育扶助」「住宅扶助」「医療扶助」「介護扶助」「出産扶助」「生業扶助」「葬祭扶助」なのだけれど、(後日「コウノドリ」の感想の時にでも触れるつもりの「出産扶助」はかなり重要)、このラノベでは「憲法で保証された文化的で最低限度の生活」の中に恋愛扶助も必要だと主張する意見が通りこれも生活保護に含まれるようになった。


恋愛生活保護の仕組み =ギャルゲーのイントロ段階までは持って行ってくれるシステム

①結婚はおろか、恋人ができる見込みがなく、片想いすらままならない人間でも無い限りは受給資格が与えられない。

②風俗的な意味合いの在るシステムではない。心理テストやカウンセリング、身体特徴、DNAレベルでの検査の結果、互いの好みや相性の良いとされる結果の出た二人を国家が仲介して出会わせるような一ステムであり、言ってみれば公的な結婚相談システムみたいなものである。

③もちろん不正受給を防ぐため、本当にどうしようもないくらい救いのない人間と「ある特殊な事情を抱えている人」だけが受給対象になる。前者が主人公で、後者がヒロイン。

④パートナーを用意してあてがうわけではなく、単に相性がよいと思われる人間を、近くに配置したり、場合によっては連絡先を教えるだけでそれ以上の介入はしない。つまり、どちらかが相手を嫌だと思ったらその時点でおしまい(顔合わせ時に不適格申請を出せるほか、28日経過後、一方の意思表示で強制的に解除可能)
→要するに、紹介されたからといって、恋人が与えられたと勘違いしてはいけない


女の人がやってくるかと思ったら、手違いですごいマッチョメンの兄貴がやってくる

主人公は恋愛生活保護をもってしても救済できないクズだが、だが、なぜか手違いでやってきたマッチョ兄貴による筋トレを経て少しずつ変わってくる

自分が嫌いか?なら、なおさらみろ、そして、別れを告げろ。これは今のお前だ。そして最後でもある。言ったろ、ユースケ、お前はやれるさ。違う自分になれる。
(中略)
なるほど、今のお前は、神様が嫌がらせしているとしか思えねえな。だったら、そんな神様、捨てちまえばいい。筋肉だ。いいか、ユースケ、大事なのは筋肉だ。筋肉は差別しない。誰にも等しく、自らの手で勝ち取れるものだ。気まぐれな神様なんてものが与えてくれる運部天賦の結果じゃねえ。すべて、自分の努力でつくり上げるものだ。顔つきだの身長だの、そんなゴミみてえのは関係ねえ!どんなちびものっぽもイケメンも、ブサイクもハゲも関係ねえ、マッチョだ。どんな生まれであってもマッチョにさえなればそいつはマッチョだ。筋肉はーーー差別……しない!
今のお前はさっきまでのお前とは違う。お前はもう前を向いている。先へ行こうと無意識に思った。お前は変わり始めたんだ。ユースケ、立ち上がれ。なんどでも立ち上げり続けろ。立ち上がった回数だけ漢はタフになる!

短期間筋トレしたくらいで強くなったりモテるようになったりはしないけれど、一つだけ大事なものを手に入れることができた主人公

それが何かは読んでみてのお楽しみ。





余談

・「恋愛生活保護」制度の押し付けがましさや功罪、リスクについても物語を展開するために必要な要素以上にきっちり考察されており、作者はかなり誠実であると思われる。

・押し付けがましさや見下しといった問題についても配慮されている。

・「ジョジョの奇妙な冒険」のペッシとプロシュート兄貴の関係をちょっと思い出した。

僕はどれだけ立ち上がってきたんだろう。どれだけやり遂げてきたんだろう。きっと、大した数じゃないんだろう。でも、いいんだ。それは悔しいけど事実だから。そう、今までのは仕方ない。構わない。だって、これからなんどでも立ち上がればいいんだから。兄貴、わかったよ。あの時の言葉の意味、今、ようやく、本当に!


アサウラさんと言えばメシの描写が旨そうである作家さんだけれど、今作でもそれはいかんなく発揮されていました。



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「健康で文化的な最低限度の生活」柏木ハルコ - この夜が明けるまであと百万の祈り