頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

最近のこのブログのお気に入りは「アークナイツ」です
アークナイツ
kindleセールの紹介
新NISA解説ブログ
発達障害

Charlotte12話  乙坂有宇は他人への思いやりを獲得できた(と視聴者は感じられた)だろうか?

前回書いた感想。

有宇は現実の理不尽さに翻弄され、超越的世界の入口に立ってはいたけれど、その手前で立ちすくんでしまう。かわりにみみちい悪事でささやかな復讐をする程度の人生を送ってきた。決定的な理不尽に襲われていなかった。妹の歩未が死んでようやく本気になったが、それも歩未を取り戻すまで。その後は何もするつもりはなかった。相変わらず「ほむほむ兄さん」に守られて自分は安穏と過ごしていく、他の超能力者のことなど他人任せ、その程度にしか考えていなかった。有宇はどこまでいっても現実に対して受け身で、たまたますごい能力を持っていたからその悲劇を回避することが出来た。そんなつまらない物語になっていた。

彼自身が自分の意思で物語を紡ぐ、という流れが全く無かった。しかもまどかと違って、自分に何ができるかを考えて見極めようとしているわけでもない。ただただ、じっと妹と一緒に平穏な日々を過ごせばよい、という殻に閉じこもっているだけなのだ。 守られていたのは「リトルバスターズ!」の理樹も同じだが、理樹はみんなから守られていたことに気づいて最終的に成長して逆にみんなを助ける。有宇くんはそういうのがない。(「AngelBeats!」はほら、あれですよ。PC版が完成形だから)

もちろん何も悪くはない。このアニメが日常系なら何の問題もない。 だが、それでいいのか? だーまえ作品ですよ? 主人公このままチンケなヘタレで、すべて周りに支えてもらってお膳立てしてもらって自分がちょっと恋心を感じた友利は「ほむほむ兄さん」を尊敬してて自分は眼中になし、そんな展開のまま終わっていいのか? だとしたら、いったいこの物語は何のために存在したのか? 

Charlotteは思ったよりずっとシンプルなお話だったのかもしれない。群像劇要素がないわけではないが、乙坂有宇という主人公が、状況に受け身に対応するだけでなく、自らの意思をもって歩き出す、という過程をどう理解するかという話なのだろうか。


「世の中クズだな」からの脱却のきっかけである友利奈緒は何を考えているのか?

前回も書いたことの繰り返しになるけれど、乙坂有宇は世の理不尽に晒され、被害者意識に縛られていた。 そのせいで①自分の能力を悪用して少し得をしてやれ ②妹と自分のいる世界だけ守れれば良いというような考えの持ち主になっていた。他人は利用すべきものでしかなく、妹以外の他人を思うということはなかった。(1話のタイトルは皮肉ですね)

そういう人間が、強制的に生徒会活動に組み入れられ、そこでワイワイやってるうちにだんだん他人への拒否感がゆるくなっていく。もちろん歩未を失った時に本来の地の部分は出てくるものの、その化け物のような醜い自分のことさえも受け止めて支えてくれる女性が側にいたことを知る。そりゃまぁその女の子のこと、好きになるよね。決してその女の子が自分のことを好きではなかったとしても、自分はその女の子のために何でもしようって思えるかもしれない。

本当はもう一つ、乙坂有宇が他人の気持や苦しみがわかるようになる、ってところも描きたかったんだろうけれど、この部分についてはちょっと消化不足かなと私は思う。兄貴がみんなのためを思って行動するだとか、熊耳が奈緒を守って死亡する、ということがどの程度乙坂有宇に影響を与えたかはよくわからなかった。

やはり乙坂を変えたのは、自分が好きな女の子をこれ以上危険な目に合わせたくない、自分の好きな女の子のために格好つけたい、そういう話になるのかもしれない。



しかし、友利奈緒という人間が彼についてどう考えているのかはよくわからないのだよなぁ。

9話感想で書いた通りの展開になったわけですが

この作品はシュタインズゲートほどではないにせよ、歩未を救うためにタイムリープを行う場合に美緒と積み重ねてきた思い出は失われてしまうことにならないかな、と。

友利はあっさりと受け入れた上で、かぐや姫のような約束をする。最終話できっちり補完されるのだろうか。「友利」という苗字が怖い。「友達」としてしか見てないような気もする。彼がそうやって動き出すきっかけを与えるためだったのか、それとも本心から誓ってくれているのか。 

「天体のメソッド」みたいに、「Charlotte彗星」の中の人がこいつで、全部集めて約束を果たしたら帰って行ってしまう、みたいな展開だったら怖いよー。……どうも私は1話からずっと友利奈緒を疑い過ぎなのかなぁ。8話でも思わせぶりだったけど結局何にもなかったし。でもこのキャラにはもうちょっと何かあって欲しいんだよね……。



これからの過酷に立ち向かうための動機はこれで十分か?

8話の時点でこの主人公の描き方は「貧乏神が!」に似てるね―という話をしていましたが、
http://tyoshiki.hatenadiary.com/entry/2015/08/23/154453

最初の方めっちゃ正確ブスだった桜子ちゃんが、最終的にめっちゃ可愛い恋する女の子に変わる展開はほんとに好きでした。

面白いなと思ったのは、桜子は自分が持っていたものを手放し、他の人に分け与える、という形だったのに対して、乙坂有宇くんの場合は、他の人の業をすべて引き受ける、という形だってことですね。手放す方も苦しいけれど、乙坂有宇の方が圧倒的に苦しい。幸いにしてその苦しみは時間制限がある(思春期を越えたら能力は消える)にしても、やはりそれだけの苦しみに耐えてまで、あの乙坂が他人のために行動するという理由があるだろうか。それに納得できるだろうか。視聴者はどれだけ乙坂に感情移入出来ただろうか。それがこの作品のキモになるのだと思う。


リトルバスターズ!」は、エンディングに到達するために必要な行動に対して、主人公の成長および動機が非常に納得できる形でマッチしていた。だからものすごく感情移入できた。「Charlotte」の場合、エンディングに到達するために必要な行動が非常に大きい。これに対して主人公の変化および動機はマッチしているだろうか。

このあたり、最終話でどう描いてくれるのかは楽しみだ


作品中で示された感情は共感できるものになるだろうか

また、AngelBeats!はたとえ全体的な脚本についての不満はあったとしても、稚拙ながらもストレートに表出される感情に共感する人は多かったのだと思う。 

世界にNOを突きつけたい 
 →理不尽に巻き込まれた自分の未練や恨みを誰かにわかってほしい
  →誰かに自分を必要だとか愛しているとか言ってほしい 
   →自分の人生を受け入れて前に進みたい 

そんな感じの描写は嫌いではなかった。おそらく納得いかなかったのは肝心の主人公の感情だけだったろうけれど、これは脚本の都合で引き裂かれてしまったものだから主人公を責めるのはちとかわいそう。

乙坂有宇のスタート地点「世の中クズだな」はあえて共感できないようにしていたはずだ、そんな彼が最終的にどういう地点にたどり着いてどういう心の叫びを私に届けてくれるのか。このあたりも楽しみ。