この夜が明けるまであと百万の祈り

とあるマンガ好きの備忘録です。私が元気づけられた出来事や作品について少しでも共有できたら嬉しいです。 ※記事を読まずにはてなスターを押して回る行為はお断りしております。

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手塚治虫「シュマリ」  強烈な欲と執念に突き動かされる人たちの迫力に圧倒される

最近人気の「ゴールデンカムイ」について語る時、必ず元ネタとして話題に出したがる人がいる作品です。

ゴールデンカムイとの関連性

実際「アイヌの黄金」「五稜郭の隠し財産」「隠し場所の地図を刺青として残す」「未亡人となった愛し人を思い続け、彼女のために金を求める主人公」など、要素だけでなく構図まで酷似していますし、作者がこの件を意識してなかったはずはありません。

ですが、この隠し財産を手に入れるまでのエピソードは、シュマリにおいては5話程度で終わるお話です。全体の6分の1くらいです。ゴールデンカムイはこの要素を上手に換骨奪胎して掘り下げることで独自の物語を作っていると考えるべきでしょう。なので独立した一つの作品として楽しめば良いし、関連付けを意識するとしてもとてもレベルの高いオマージュ作品として「知っていればより楽しめる」くらいに思っていればいいですね。

そもそも「シュマリ」と「ゴールデンカムイ」では、作品で語られる時系列がだいぶずれてます。シュマリが活躍するのは戊辰戦争終結直後、つまり1870年あたり。そして作品の終盤でも1900年に入らないあたりです。これに対して「ゴールデンカムイ」の舞台は日露戦争が終わり、生き残った主人公が日本に戻ってきてから。つまり1906年頃からです。 ちょうどタイミング的に入れ替わりのようになっているのが面白いですね。


シュマリ

というわけで、「シュマリ」は黄金を手に入れることがゴールの物語ではない。むしろ手に入れてからが本編になります。シュマリが手に入れた黄金がどうなるかは作品読んでみてください。


じゃあシュマリってどんな話かというと、これが一言で言い表しにくい。シュマリだけでなくいろんな人間が主役となって群像劇のように物語が進み、その中でそれぞれが絡み合っています。



①1870年代から1900年にかけて、怒涛の勢いで変化していく日本において北海道もどのように変わっていったかというマクロの流れを描き、その中で翻弄されたりのし上がっていく人たちの姿を描く。(華本男爵や大財弥七たち)



②本州の人間がどんどん入り込んでいって、原住民であったアイヌの人たちがどのような影響を受けたかを描く (この部分は結局中途半端に終わる)

1893年 北海道は和人たちの手によって根こそぎ塗り替えられようとしていた……

③時代の激流の中で、こうと決めたら絶対に妥協しない頑固者のシュマリが、時代の流れから身を離し、北海道という土地で己を貫いて生き抜く姿を描く。
(殺人犯として手配されたり、捕まって牢獄に放り込まれたり、炭鉱夫になったり、荒れた土地でたくましく生き抜いたり、恋愛があったりの波乱万丈ぶりは「風と共に去りぬ」を思い出します)

おれが馬を買う訳を教えてやろうか。
この北海道がもともとアイヌのものだからさ。
もちろん今でもそうだ。おれはな
アイヌの財産をこれっばかりも持ちだすきにはなれないんだよ。
おれたちにアイヌの国でできることといえば
連中から土地をちょっぴり借りてよ、そこに牧場をつくるのがせいぜいだ。
これなら財産をおかすことにゃあならんだろうよ
おれは頑固でな。一旦きめたことは変えられねえタチよ


④そのシュマリに連れ添い、彼を思い続けた一人の女性(お峯)の姿を描く。
(お峯の情の深さ、執念の強さは「コレラ時代の愛」を思い出します)

だれが買えるもんか、あんたの思惑通りにゃさせないから!
死ぬんならここで死んでやる。そしてここで化けて出てやるよ。

全部わかってんのよ。だからこのごろはそっと放っておくのさ
そうすると元気がいいんだよ。
そうしてねえ、ときどきわざと妬いているようなふりをしてやると喜んでるよ
何を巻上げたっていい。
かあちゃんはあの人がいつまでも若々しくって元気ならそれで満足なんだ
ウフフフ・・・・・・

あんた、忘れないで。地獄にいったってわたしゃ女房だよ!


こんな感じでしょうか。この4つの流れが時々交差しては離れて、の繰り返しで物語が動いていきます。その交差の部分が面白いんですよね。もっとも重要なのは③と④が交わる「ラブストーリー」かもしれないけれども。

そんなわけでなんとも説明しにくい作品です。作者自身がこの作品の出来には納得いってないというコメントを残していたとおり、この作品は紆余曲折あって、おそらく作者が最初に構想した要素とは全く違ったものになっているのでしょう。実際ストーリーはあちこち迷走して、すんなり理解できないものになってます。ただ、逆に言えばあの手塚治虫を持ってしても描いている途中で主人公たちが制御出来ないような動きを見せたのだとしたら、それはすごく面白いと思います。

激動の時代でそれぞれ己の選んだ道を生き抜いていこうとするキャラクターの力強さに刺激を受ける

また、間違いなく言えるのは、この作品に登場する人物はどいつもこいつもみんな強烈な欲と執念に突き動かされていたということです。
この作品に登場する和人たちはみんな自分の欲のためなら人を殺しても構わない、そのくらいギラギラしてます。何が何でも自分の思いを貫いてやる、他人を蹴落としてでも、他人から理不尽に奪ってでも自分だけはのし上がってやる。そんな感じの自分勝手さで、人間としてはどうかと思うような人たちが多いけれど、そのむき出しの情念の強さに、読んでいるこちらとしては圧倒されっぱなしでした。今この作品で描かれているほど強烈な欲や情念を感じさせるキャラなんてなかなか見られないんじゃないかと。


うまく言えないんですが、とにかく迫力あるマンガで、真似をしたいとは思わないけれど私も刺激を受けました。この100分の1くらいでいいから自分ももう少しギラギラしていきたい。この人達の力強さを身に着けたい、そんなふうに感じました。


手塚治虫作品あんまり読んでないけれど、いざ読んでみるとやっぱりすごく面白い。他の作品も時間をみつけて死ぬまでに読みきりたいなぁ。