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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「盾の勇者の成り上がり」コミック版  人間不信の地獄とそこからの解放

原作は「小説家になろう」初期?の人気作品。連載当時は怒涛の更新ペースで話題になった。すでに完結済み。

「人間不信の主人公」を作り上げる導入部分が非常にインパクト有る

導入は「ふしぎ遊戯」や「十二国物語」など、よくある異世界召喚もの。しかもこの作品の場合、最初から「4人の勇者のうちの1人」としての役割を期待される立場で呼び出される。そう考えればかなり恵まれたスタートを切れたはずだったのだが……。実際に与えられた役割は4人の中で最も不人気な「盾の勇者」。防御特化型でろくに攻撃が出来ないという使い勝手が悪い能力。その結果、誰も彼を必要として必要とせず、他の勇者連中にも仲間はずれにされる。
さらに追い打ちとして勇者の一人にハメられて女性に暴行を働いたという汚名を受け、国全体から蔑まれる存在になってしまう。最初世界に期待を持ってやってきたら、いきなりどん底まで叩き落とされる、という展開に成る。

主人公は元は本好きの穏やかな青年だったのに、この仕打ちを受けてすっかり人間不信に陥ってしまう。誰もが自分を陥れ、寄ってたかって自分から何かを奪おうとする存在に見えてしまう。自分なんて誰にも愛されない、というあきらめから自らも悪者っぽい振る舞いをするように成る。つねに人を疑い相手の弱みを握ってから出ないと会話できなくなる。
もうほんとに生まれや育ちなんて関係無くとも、人を信じられなくなり、さらに自分まで信じられなくなる環境に追い込まれると、人間は一瞬でここまで荒むのだ、という姿を見せつけてくれる。




やむを得ないとはいえ人間不信かつ自信喪失の人間の卑屈さは見ているだけでムカつく

で、とにかくこの主人公人を信じない。しかし能力の関係上盾の勇者はまともに攻撃すら出来ずレベル上げが出来ない。かといって他人に助けを求めることは出来ない。そこでどうしたか。

主人公は「奴隷の娘を購入」することにした。

自分より弱くて、魔法の力で絶対に自分に逆らえない存在を求めたのだ。某はてなアイドルがしょっちゅう願望として述べている「金の力で自分より弱い女をひっぱたく」を本当にこの作品ではやってのける。人間不信や自己信頼のなさが極まれば、信じられるのは二次元だけというわけだ。この作品はたまたま二次元にしか存在しないはずの「奴隷」という都合の良い存在が存在するわけだけれどそういう存在がいなければ、自尊心が低く人間不信な奴がどういう振る舞いをするかは想像に難くない。自分より弱い奴にはマウンティングするくせに、被害者ぶるような卑屈な人格の出来上がりである。
私はこういう卑屈な人間が、やむを得ないところもあるとか同情すべき点もあるとわかっていても不愉快で仕方がない。

(主人公は途中まで食べ物の味すらわからないと言っているのでかなりの鬱状態で戦い続けていると思われる)



主人公がどん底の状況と人間不信から回復していく過程が重要

もっとも、この主人公は、もともとの育ちが良い。自分が脅かしされたりしなければ、人を傷つけるような人間ではなかった。だから彼は「奴隷」を購入したものの、その奴隷を憂さ晴らしに使ったり虐待したりはしない。あくまで戦闘に協力させ、その代わりに彼女を守り、衣食住も保証するというギブアンドテイクの関係を貫こうとする。


そうやって「初手を間違えなかった」ことにより、その後すこしずつ状況は改善していく

①「奴隷」との関係が出来上がることで最低限生き延びる道を確立することが出来る、

②最低限生き伸びる道を確立することができれば人を騙したり傷つけたりする必要性がなくなる。

③人を騙したり傷つけたりする必要がなくなれば「まともな行動」だけでも回せるように成る。

④まともな行動を積み重ねていくと、少しずつ人に信頼されたり好意を得られるように成る。

⑤人からうけた好意や信頼を拒否せず受け取ることができれば相手によっては信頼してもいい人が出てくる。

⑥信頼してもいい人がでてくることによって、心が穏やかになっていき、ようやく少し笑えるようになる。

こうやってちょっとずつ心が癒えてくる。


しかしこの過程において、例えば①で主人公が奴隷に八つ当たりをしてしまったり③について、人を傷つけるようなことをしてしまうとそこから先に進めなくなっていただろう。無視してその先に行こうとしても、足を引っ張られてまたこの段階に引き戻されることになる。どれ一つだって手抜きをして通り過ぎることは出来ないのだ。むしろ、前の段階をクリア出来ていないのに一足飛び出来てしまったりするのは運が悪いかもしれない。
最近メルマガをはじめたあのお方は、まだ①や③がクリア出来ていないのにいきなり⑥に行こうとする結果、多分これからも躓き続ける危険が高いと思って心配している。


最後の苦しみ :たとえ被害者であっても、一度堕ちてしまうとなかなか自分を許して信頼することが出来ない。

ともかく主人公は人間不信に苦しみながらもきっちりと段階を踏んで回復してきた。
しかし、ここまできても、最後の段階は難しい。

「人によっては信頼できる」とか「身近な人には大事にされていると感じる」ところまで言っても

⑦「自分で自分を信頼する」「自分は愛されるに足る存在であると信じる」


⑧自分以外に誰かを大切にしたいと思うようになる


⑨断続的に発生する理不尽への怒りを制御する

特に⑦の過程がとても難しいと思う。この作品も、⑥まではスムーズに進むのだけれど⑦の壁をなかなか越えられない。


この作品の場合は理由が2つある。

(1)1つは、たとえ被害者で、かつやむを得なかったとはいえ、それでも人を傷つけてきた、その行いは簡単には許されたりしないから。

(2)もう一つは「奴隷」という元々インチキな関係からスタートしているから



(1)被害者意識から自分を解放するという困難
極めて理不尽だけれど、毒親に傷つけられたアダルトチルドレンとか、DVにあった女性とかの人がいたとしてたとえ彼ら彼女らが被害者であっても、傷つけた心を誰かが癒やしてくれるわけではない。癒やしてくれると錯覚するような人時々出てくるけど、それは新しい地獄への入口であることが多いからね……。また、傷ついていた時期に周りに迷惑を与えていたりなどしたら、その時の振る舞いは全部降りかかってくる。一生底辺でいても良いというならそれはそれで良いが、自分をもう一度信じたいと思うなら、もう一度自分が愛されたいと思うなら、そことは向き合わないといけない。それはもう他人のためというよりも、自分のためだ。


(2)ズルの関係から他者の関係としてやり直す必要性
人が自分を信じるにはどうしても「他者」が必要だ。 どれだけ安心できるからといって、自分より弱い存在や、奴隷を支配するという関係に甘んじていたら、ほんとうの意味で認められたとはいえない。「自分を認めてくれない人間を遠ざける」という行為を繰り返している限りはいつまでも自分が本当に受け入れられているという実感を得ることは出来ない。怖くても自分の思い通りにならなかもしれない「他者」と向き合って、その人のために何かが出来るという意識を持てなければ、ほんとうの意味で安心できることはない。

いわゆる他者が理解しづらいのは、あなたのために存在するのではないからだ。他者を理解するということは、あなた宛でない手紙を盗み見るようなものだ。彼らの考えや行動は、あなたの知らないことを前提とし、あなたが共有しない文脈(コンテクスト)に基づいている。だから理解しづらいし対応しづらい。
しかし他者とつきあうことで得られるご利益もまた、同じところに存する。

http://tyoshiki.hatenadiary.com/entry/2016/01/05/001327

この最も困難な部分をどうやって乗り越えたのか、そこが最大の見所であるのでここはぜひ読んでみて欲しい

ここまででようやく4分の1くらいです。そこからさらに世界中を回って旅をするという展開になってます。





「小説家になろう」は「書くセラピー」と言われていた時期も有り、実際この作品はその最たる例であるとも言えるが、上記のような悩みを抱えていたことがある人、今もそれと格闘しているという人には一読の価値があると思う。小説版はゲームブックみたいな記述が多くて読みにくいが
コミック版は非常にそのあたり上手にまとめているのでまずこちらをおすすめします。


「奴隷」=「二次元的存在」という存在を必要とするということが非現実的だと思えるかもしれないけれどそんなことはない。ギャルゲーや乙女ゲーも存在するし、なんなら自分で思い浮かべてもいい。そういう脳内の「俺の嫁」の存在に恥じない生き方をすることでまず行動を変える、ということは十分に可能ダゾ♪

※コレに関して、昔よく聞いた「収容所の囚人たちが、女の子を思い浮かべることで規律正しく過ごした」っていう本当か嘘かわからない逸話が好きなんですが、どなたが心当たりありませんか?