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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いを述べるお前は何者なのか?

人を殺してはいけない理由が思いつかない(追記 27 15:00)

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急にこの話題が出たのでまず条件反射的に大江健三郎周りの話題を投げておく

ぼくたちの戦争 〜 なぜ人を殺してはいけないのか? 〜 - Awa Library Report
http://www.relnet.co.jp/relnet/brief/r18-151.htm
なぜ人を殺してはいけないのか? 若草書房編集長: 村上春樹スタディーズ
中高生が「なぜ人を殺してはいけないのか」と問いかけるのは悪いことで... - Yahoo!知恵袋

大江は後日、朝日新聞のコラムで答えた。

私はむしろ、この質問に問題があると思う。まともな子供なら、そういう問いかけを口にすることを恥じるものだ。 (中略) 人を殺さないということ自体に意味がある。どうしてと問うのは、その直観にさからう無意味な行為で、誇りのある人間のすることじゃないと子供は思っているだろう(朝日新聞1997.11.30)

これは小説家として、一番言ってはならない言葉だ。自分の想像力・思考力の欠如を反省せず、質問者の素朴かつまじめな悩みを圧殺している。大江は誠実に答えなければならない。なぜなら、この疑問は哲学的という以上に、極めて文学的なものであるからだ

上の増田はあまり誠実だと思えないので正直スルーしてもいいと思うが、この問いをつぶしてしまうこともよくないというのがベースですね。

「ミステリと言う勿れ」のシチュエーション

ついでに、ちょうど「ミステリと言う勿れ」という作品でこの問いに関するやりとりがあったので、そのマンガでの答えを紹介しておきます。

ある日、主人公が乗っていたバスがバスジャックされる。このバスジャック犯、特に金を要求するでもなく、乗客に対していろんな問いかけをしていく。その中の一つが「あんたは、どうして人を殺しちゃいけないと思う?」というもの。

この問いかけで大事なのは主語があること。「あなたはどう思う?」という問いになっていることだ。最大公約数的な、あるいは脱主語的な答えは求めてない。乗客は「そんなの当たり前のことだろうが!」と答えたり「自分が殺されたくないから」「残された人が悲しむから」「捕まるから。罪になるから」などいろんな答えを返す。

これに対して、バスジャック犯は最初から納得するつもりなんかないから「殺されてもいいやつは殺してもいいってことかな?」「悲しむ存在がいないなら殺してもいいのか?」「罪にならないならやるのか?」と嫌がらせをしていく。



ここで出てくるのが主人公の演説です。

いけないってことはないんですよ。別に法律で決まってることでもないですし。人を殺しちゃいけないって法はないです。罰則はありますが。


なぜ人を殺しちゃいけないのか。いけなくはないんだけど。ただ、秩序のある、平和で安定した社会を作るために、便宜上そうなっているだけです。だって今は殺しちゃいけないってことになってますけど、ひとたび戦時下となればいきなりOKになるんですよ。それどころかたくさん殺した方が誉められるって状況すらある。そんな二枚舌で語られるような、適当な話なんですよ。実際今も殺しまくってる場所は世界中にある。自国では殺しちゃだめでも、他人の国には空爆OKの人たちもいる。僕はそういう人たちは子供になんて説明してるんだろうと、興味があります。



だから、あなたが本当にその問いを真剣に考えているんだったら、そういうところに行ったらいいと思います。外国人でも受け入れてくれるところもあるし、渡航禁止令が出てるところでも、あなたはバスジャックをするくらい法令を気にしないんだから、行くルートはあるでしょう。



ただし、そういうところではあなたもサクっと殺されます。「どうして人を殺…」あたりでもうサクっと殺されていると思います。あなたが今殺されないでいるのは、ここにいるのが、秩序を重んじる側の人たちだからです。日頃から人を殺そうとも思っていないし、殺したいとも思っていない。バスジャック犯だから殺してもいいとすら考えない。どうして人を殺しちゃいけないんだろう、なんて。わざわざ考えることもない。そういう人たちだから、今あなたは殺されないで済んでいるんです。



つまり、あなたは水泳大会にやってきて、棒高跳びをしたいって言ってるようなものです。大変、迷惑なんですよ。だからね、あなたは棒高跳びの大会に出たらいいんですよ。ただし、あなたが出たい大会は、グラウンド整備もされてないし、なんのルールもない。誰も順番を守らない。あなたの棒をへし折りに来る人もいる。そういう大会です。それが、あなたの出たい大会ですよ。そういうところに行ったらどうですか。もしくは、戦争になれば、あなたのような人は重宝されると思います。



ただし。

もしそういうところには行きたくない。自分は殺されたくない。自分だけが殺す側に居たい。とか思っているのならそれはまた別の話です。それは単に、人より優位に立ちたいとか、人を支配したいとか、いたぶったら心地よいとか、そういう話で。

つまり、劣等感の裏返しだからです。コンプレックスの裏返し、それだけの話です。どうして人を殺したらいけないんだろう、なんてレベルの話じゃそもそもないんですよ。

この話は言うまでもなく「詭弁」です。相手がなぜこの質問をしたのか、に話を帰着させようとする話題そらしです。

ただ、実際にバスジャック犯は、真摯にその問いへの答えを求めていたわけじゃない。「誰も俺の問いに答えられない状況」だとか、「誰もが疑問を抱かないことをずっと考えているわたし」を求めているようにしか見えないのだから、こういうぞんざいな返しをされても仕方ないだろう。昨日紹介した「幸色のワンルーム」の少女なみに考えが浅い。

だから上の増田についたトップブコメもこうなってますね。

agathon 「俺を説得して見せろ」メソッド使いを相手にしているほど暇じゃない

ちなみに上の主人公の返しは詭弁なので、バスジャック犯も、このように返答している。

今の話は面白かった。でもな、みんながルールを守って楽しんでるプールで、わざわざ棒高跳びをしたいのが、殺人鬼なんだよ。

ですよねー。


はてなで聞くよりそういうテーマの作品を読めばいいじゃない!

真剣に考えたい人は、そういうのを真剣に考えている登場人物が出てくる作品を読むことをお勧めします。

ブコメでは「罪と罰」や井伏鱒二の「黒い雨」が紹介されている。私は辻村深月の「子供たちは夜と遊ぶ」「ぼくのメジャースプーン」をお勧めしたいです。

「そもそもなぜその問いが必要なのか。なぜ誰かを殺したいと思うのか」という部分から構築され、現実における様々な制約を取り除いた際に、最後に残る部分はどこか。そして、実際に人を殺してしまったら自分はその後どうなってしまうのか。

そういう部分をよくよく想像すると良いでしょう。そのうえで、上の増田のような間抜けな問いを出せるならそれはそれで幸せなことだと思います。

上の増田は主語を抜いて聞かれたから、多くの人は「社会」を主語にして答えた。そのような答えしかもらえなかった。本当に「自分の答え」を見つけたいのであれば問い方は変わっていただろう。つまり「人を殺したいと強く思わないのであれば、その問いについて考える必要ないよね。それでもその問いを人に投げかける理由は何?」ってことです。




余談ですが私の答え。
個人的には「空の境界」や「パンプキン・シザース」、「幽麗塔」などで共通して語られるある理由が、私にとってのお気に入りです。どういうことかって?読めばわかるさ。