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「漫画アシスタントの日常」 漫画制作の現場を通してミドルマネジメントの価値を再確認するなど

評価★★(個人的評価★★★)

賞獲りのアマチュア作画原稿から、誌面に耐えうるプロ原稿へ進化を遂げるために2,3年しか修行できる期間が無いん!そして連載は速度も必須!アシスタントさんの力を見抜き、うまく指示出しして効率よく原稿を完成させる技術も必要!アシスタントとして雇われる経験をしていれば、自分が雇う立場になった時に必ず生きる!

id:TM2501さんに紹介していただきました。ありがとうございます。

「漫画アシスタントの日常」というタイトルだけれど、漠然と「漫画作るのって大変やでー、アシスタントも大変なんやでーすごいんやでー」という話ではなく、「チーフアシスタント」の存在=ミドルマネジメントの重要性を繰り返し説いているのが特徴。

そういう意味で、漫画家という仕事に興味がない私でもとても参考になる。

2巻後半以降は「アシスタント業しながら漫画家を目指す主人公」の物語がスタートしていくが、この記事ではあえて1巻中間までの導入要素である「チーフアシスタント」の話だけ触れておく。


どの仕事よりも「ミドルマネジメント」が必須の職場、それが漫画制作の現場

作者は漫画制作は特殊な仕事であるということは認めつつ、まずは「漫画家を個人事業主とするビジネス」として捉えている。そういう目線で考えると漫画業界は人材の入れ替わりが激しく、また工業製品でもないのに「制作」から「販売」までのリードタイムが短いことがわかる。制約条件に合わせて「作家のこだわりの追求(職人性)」と「徹底的な効率追求(事業性)」という両立しえないものを両立する必要があるということだ。ここでチーフアシスタントという役職の必要性が生じる。


しかし、少なくないケースでマネジメントはうまく行っていない。まず最初にそういった「駄目なケース」を描きつつ主人公の「有能ぶり」をアピールしていく。

具体的に言うと
・事業主である漫画家が職人性を追求しすぎたり、効率化を図らず気合で乗り切ろうとするため修羅場に陥り(第一話)
・さらに事業主によるパワハラが横行したり(第二話)
・事業主が中堅アシスタントを制御できずに人間関係のトラブルやいじめが発生したり(第四話)
・チーフアシスタントはおいているが能力がないため機能不全に陥ったり(第五話)
個人事業主である漫画家がアシスタントに精神的ケアを求めるのが当たり前になっていたり(同人誌版)
・新人が、プライドが高過ぎたり協調性がないケースが多く教育や採用コストが高いなど(同人誌版)

マネジメントのマの字もない、「自業自得なブラック職場」が描かれる。

さらに言えば、出版社から漫画家に支払われる原稿料はどんどん減っており、たくさん人を雇って人海戦術で乗り切ることが難しくなっている現状も想像できる。少数精鋭化が求められるにつれて、有能な人材は枯渇し、自前で育てる必要が出てきているにも関わらずその時間余裕がないという「構造的なブラック職場」環境についても触れられている。(第四話)

有能なチーフアシスタント(ミドルマネジメント)の仕事がどれだけ全体の仕事を楽にするか

そうやって延々と駄目な現場と主人公の「俺TUEEE」ばかり描かれるとうんざりしてくるところだけれど、この作品は早々と第八話から主人公が「チーフアシスタント」として仕事を始めることに成る。このテンポの良さが素晴らしい。

チーフアシスタントの仕事だが多岐に渡る。

(1)各アシスタントの実力の把握、レベルに応じた作業の割り振り、「具体的な」リテイク指示

E級 集中線・トーン(ベタ張り)、ベタ、ホワイト、枠線
D級 ベタ髪、トーン(ぼかし、フラッシュ、影)、背景(人物なしトレース)
C級 背景(人物つき、資料付き)、小道具、小物(カバン・グラス、車など)
B級 背景(キャラが複数人いるもの、魚眼風?)、小道具、自転車
A級 背景(キャラが複数人描いている、人物のパースがずれているのを合わせる)、見開き背景
S級 作者の頭にしか無いイメージの背景など

(2)スタッフの実力底上げのための勉強会を行う
(3)漫画家・スタッフのモチベーション管理
(4)確定申告の手伝いなど

3が特に厄介で、スタッフは「漫画家志望」であり「賞獲り者」でもあるため、アシスタントとして熟練するだけの作業は喜ばないなど扱いが難しい。

チーフアシスタントがいない場合、これらを漫画家本人がやらなければいけない(あるいは全く行わない)わけで、①作品つくりの時間が犠牲に成る②作品の質が犠牲に成る③ひたすら徹夜の三択になる。チーフアシスタント(ミドルマネジメント)の不在は、ブラック一直線というわけだ。

こうした内容をしっかり整理して素人である読者に伝えてくれる作家さん、相当苦労してきたんだろうなと思う。そのせいかをこうして漫画として読ませてくれるわけだからもう感謝しかない。そういう意味で、1巻2巻は漫画アシスタントに全く興味なくても読む価値アリです。

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2巻後半以降は「連載漫画家の日常」

ここから先は、漫画家として週間連載ではボツをくらったが、月刊で短期連載を持つことになった主人公が漫画家側となり、さらに週間連載にこぎつけ、それぞれの環境でまた気づきを得ていく展開になる。

説明だけでなく、きちんとストーリーが動き始める。

アシで腕が上がる時期は過ぎた。デビューまでの時間つぶしと生活費稼ぎにしかなってない。
もはや自分の漫画で実戦経験を積む以外、成長はない!

連載を続けていくための肝心要の力は、面白い漫画を描き続けられる能力。
アシスタントで鍛えられる能力は、あくまでそのサポート的な能力のみ。
面白い漫画の描き方はどこでも学べない。学べるとしたら、実践のみ。
連載の中で見つけ出し、学ぶ。それが出来なければ死。そういう世界。


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と、思ったら3巻では全く話が進まなくなってしまった。

3巻からは同人誌掲載のものを載っけてる感じなのね……。

正直私は2巻からの続きのストーリーを期待してたのでかなりがっかりしてしまいました。

3巻は漫画家になりたい人が読んで下さい。


ただ、3巻も「同人誌」と「連載マンガ」の違いがよくわかって面白い。

同人誌版は、ストーリーは添え物というかごくごく狭い範囲の読者向けの「解説」重視。漫画にしては文字数が多く、1話1話にものすごく詰め込んでいて密度が高い。絵付きのブログ記事を読んでるような感じ。ネット受け要素の強い1話完結型のPixivや同人誌的な漫画の作り方はこうなんだな、ってのがわかる。

一方、連載版は私みたいに漫画家の技術に興味なくても楽しく読める。それは漫画家さんがそういう風に作ってれてるからなのだなってのがすごくよくわかります。

改めてプロの漫画家さんって大変だけどすごい仕事だなって思う。