この夜が明けるまであと百万の祈り

とあるマンガ好きの備忘録です。私が元気づけられた出来事や作品について少しでも共有できたら嬉しいです

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「彼方から」5巻まで 「普通の女の子」が普通のまま頑張る姿を描く、エンパワメントに満ちた傑作

エンパワメントは、個人や集団が自分の人生の主人公となれるように力をつけて、自分自身の生活や環境をよりコントロールできるようにしていくこと

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/glossary/Empowerment.html

評価★★★★(個人的評価★★★★★)
1991年頃から連載されていた作品。「ふしぎ遊戯」より更に前ですね。最近はてブで宣伝してる人がいらっしゃったので読みましたが大変おもしろかったです。教えてくれてたid:kashi0023 さんありがとうありがとう。

http://b.hatena.ne.jp/entry/s/anond.hatelabo.jp/20180505091801
http://b.hatena.ne.jp/entry/s/anond.hatelabo.jp/20180511112737
午後の国」「迷廊館のチャナ」も読んでみたいですね。あと「エスカフローネ」って作品すごい面白そう。

少女漫画で「異世界転生」もの

少女漫画ということもあり、「いわゆる最近の異世界転生もの」から想像される作品とは全然違う。「十二国記」や「プラネット・ラダー」寄りの作品。異世界転生モノではないけど「流血女神伝」や「絶園のテンペスト」なんかも思い出します。

多くの国が争っている中世風の世界に突然飛ばされるという設定は最近のものとそう変わらないが、主人公のノリコは本当に普通の女子高生であり、この世界では最初完全に無力な存在である。チート的な能力はない。そんな状態で物騒な世界に一人放り込まれる。

最初に出会った男イザーク(実は異世界からやってきた存在を頃すつもりで訪れていた)に助けらるが、それにしてもハードモードである。

これに対し、ノリコは弱っちいけどメンタルは非常に強く、何度も怖い目にあって泣きながらも、その環境を嘆くだけではなく、その世界の言葉を覚え、人々に適応し、自分になにかできることがないかを考えて勇気を持って行動していく。

今も考えてる。
突然この世界に飛ばされたけど、きっと何か使命が有るんだって。
何をしよう。何ができるかな。あたしのできること。
まず言葉を覚えて。それから、それから。
ああそうだ。あのおじさんたちの心遣い、嬉しかったな。
あの時みんな、心おひさましてて、暖かく照らしてくれた。
お日さましてるのっていいな。あたしもそうでありたいな。
何の力もないあたしでも、そんなことならできるかな。

「能力」に関する男女の感覚の違いみたいなものについて

これは栗本薫だったか、赤坂さんだったかどっちの言葉か忘れたけど。男と女の違いでこういう話がある。

男はとにかく能力やスペックを持って己が特別であることを証明しようとする。役職だけあっても力がなければ意味がないと考える。これは男としてよく分かる。
一方で、女性は「特別であること」に特に理由は求めないらしい。そのかわりどれだけ能力やスペックが高くても「特別である」という称号のようなものがなければ意味がない、らしい。本当かどうかはわからないが。

だから、男からすると、例えば「美人」とか「かわいい」というスペックに関する言葉は、単に「好き」と褒めるよりもよほど強く相手を褒めているのだが、女性からすると、そんなことよりも「私は貴女が好きです」と言われるほうが嬉しいし、むしろ美人というだけだと「中身を見てない」「私自身に関心がない」と怒ったり、悲しんだりする、ようだ。
逆に、女性は落ち込んでる男や、特に男の子供に対してとにかく愛の言葉をかけようとするのだけれど、能力や成果が足りないと思っている場合はいくら言っても自信を持つことは難しい。「能力やスペックなんてどうでもいい。あなたのこと信じてる。あなたが大事」といくら言ってもそれで自信を保つことは難しい。どんだけ愛だのと綺麗事を言っても、能力を持たないものは淘汰され、愛想を尽かされるという思いが非常に強い。

女の子が力を発揮する時

この作品は、そういう感覚の違いは結構感じる。ノリコはこの作品において特別な存在であるが、戦う能力などは一切ない。あくまでイザークと精神リンクができるだけ。むしろその特別さ故にいろんな人間から襲われるという意味では足手まといですら有る。

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少女漫画というより、少年漫画的な話の展開のため、ノリコも最初は自分の非力さを嘆き、「自分にもっと力があったら……」と力を求めたりする。

しかし彼女はいろんな人達から守られ、そしてありのままの自分でも力になれることに気づいていく。さらに助力を求められたりしたことで、彼女自身、無力な自分を嘆いて力を求めるのではなく、今の自分にできることを見出す。

あの彼が、今のままのあたしにできることがあるって言ってた。やるべきことが今の自分にあるのにそれを放り出さなきゃもらえない力なんて要らない。アタシが今いかなきゃいけないのは、あっちだ

足がもつれる。怖さで身体が萎縮してうまく走れない。
こういう時はどうする。自分にない力を欲しがって嘆くのか。
違うっ、違うぞ!そんなことじゃパワーは出ないんだ。
アタシのままでできること。それは何だ?
アタシは非力だ。逃げることしか出来ない。だったら精一杯逃げることだ。それが今のあたしのすることだ。
パワーを出せ!!人のできることをするんじゃないんだ。今の自分ができることに集中するんだ

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これに対し、力さえあれば何でも好きなことができると思って力を求めたり、弱いやつには横柄に振る舞ったりメンツばかり気にする男たちはかなり否定的に描かれる。そういうやつらは、男たちの世界ではいいのかもしれないけど、女からしたら全く魅力的ではない、むしろみっともないよ!とバラゴやナーダといった人物を通して突きつけてくる。強いことや正しいことよりも優しいことのほうが大事だとバーダナムなどの描写を通して訴えてくる。

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ストーリーもさることながら、こういう感じで「女の子の強さ」をまっすぐ描いていくの、ものすごく良い。
最近ネットで「女は弱い」っていいながら棍棒振り回してくるようなやつばっかり見てたから感覚狂ってたけど、「女は本当はめっちゃくちゃ強いし、こんなふうに活躍できるぞ」ってのを描いてくれてる作品を見ると、心が浄化されそうです。

もっとこういう作品読みたい。

彼方から (第7巻) (白泉社文庫)

ひかわ きょうこ 白泉社 2005-03-01
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余談 じっさい、5巻に出てくる森の住人の成れの果ての人たちは、今のミサンドリストとミソジニストの争いを見てるようだ……

皆が自己主張を繰り返し、相手のいうことに耳を貸さず。それがあいつを呼んだ。惨劇の始まりだった。

「仕返しだ。思い知らせてやれ。悪いのはあっちだ」
「ふざけるな。そもそもの原因はそっちじゃないか」

刃物を持ち出しお互いに殺し合う前に気づいてほしかった。自分たちが操られているということに。あ互いがお互いの憎しみを増幅し、自らのクビを締めているのだと。

そして、彼らの思いのエネルギーを利用して、あいつはここに結界を張った。居心地の良い自らの住処として。だから彼らには出口がないんだ。死に絶えた今も、彼らの魂は苦しんでいる。あいつに操られ、恨みと憎しみの念に縛られて、悪意の世界から抜け出せず堂々巡りを繰り返している。出口のない森の中。

だけど僕には聞こえるんだ。それに疲れ果て、助けを呼ぶモノの声が。操られながらも、何かが違うと気づき始め、抜け出そうともがく声が。

出口を作りたい。出口さえあれば、その人達を助け出せる。

気がついて。そこはあなた達がいる場所じゃない。
思い出して、自分自身を。
苦しまないで、大丈夫。
あなた達は本当はとても優しいのだから。幸せになれる。
ほら。やり直そうよ。