頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「アスペル・カノジョ」 作者と読者の殴り合いのような関係がすごい面白い

タイトルを見て想像するとなんか「明るい記憶喪失」みたいなゆるふわな感じがしなくもないけれど、実際は、アスペルガーでは有るのだが、そこから二次障害としてメンヘラをこじらせてリストカット常習者になった少女(18歳・高校中退。障害者福祉手帳持ち)が、いきなり同人作家である主人公の家に押しかけてきてそのまま居候するようになる話。


この漫画すごいなと思うのは、この女の子が全く可愛くないこと。容姿の話ではない。むしろ容姿は整っている。にも関わらず、彼女の振る舞いやオーラのせいで全く可愛く見えない*1。かわいいとか感じる前に「怖い」「気持ち悪い」「近寄りたくない」って感じさせる力がある。


・じっと相手を凝視し、
・会話は自分が思ったことを率直にしゃべるだけで圧迫感があり、当たりを柔らかくするような気遣いを感じさせない。
・しかも会話の途中で唐突に通りがかった犬を蹴り飛ばす。
・家に泊めた最初の晩で脈絡なく(彼女にとっては有るけど)リストカットを行う。

などなどひたすらに危なっかしい。
この当たりの描写は同じくリストカットしてしまったことがある人には共感を持って受け入れられるのかもしれないけれど、私は正直この少女を理解したいとは思わない。

「私のいる世界を描いてくれている」「私の存在を認識してくれている」

でも、この少女は、誰も評価してくれない主人公の同人マンガを評価してくれる存在である。主人公は、自分の作品の意義を感じさせてくれるこの少女に興味を持つ。

なぜ彼女が、どマイナーな自分の作品を好きなのか訊ねると、このようなことを答える。

「プロの漫画家とか週刊誌とか読まないの?」

「いくつか読んでますけど、好きなのは見つからないです。っていうか、嫌いなのしかない。どいつもこいつも、私みたいなのがいない世界を描いているって感じ。」

わたしみたいなのがいない世界。登場しないのではなく、却下されている。

多分それを、この世の意思みたいに感じているから、脱落者のその後を描いている俺に引っかかったのかな。

「横井さんのひどい境遇のマンガを読むと、自分みたいなのを知ってくれている人がいるんだなって安心する。

どの本を、何を読んでも(私みたいなのは)いつも無視されていて、治せない私が悪いって言われてるみたいだった。」

「エッセイなんかで、もっと洗練されたリアルな実情を描いた作品もたくさんあると思うよ」

「そういうのは、あったことが書いてあるだけで面白くないです」

「こんな人間がこれからどうなっていくのかそんな未来をお話してくれるから、自分と重ねて考えられるんです。診療内科の先生もたくさん教えてくれたけど、私自身が興味を持ち続けられなくて」

こういう作品を見て心が動かされる気持ちはちょっとわかる。


これについては、「少女不十分」や「スロウハイツの神様」を思い出す。どちらも作者も、「そういう、何かに悩み続けてる人」「社会に適応できない人たち」たちをしつこく描き続けている人だ。

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

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ちなみに、作者もまたこのリストカット常習少女とそんなに変わらない地点にいる。

俺の作品に共通しているのは、主人公の自閉的な性格と、いつまでも抜け出せない終わりのなさ。

なんでそんな話ばかり描くのかと聞かれたら、そんな話が見えているから、としか言えない。

「死ぬはずだった人を、長生きさせてみたくて描いているのかもしれない。金にならないオリジナルを描く理由」

「そんなことできるんですか?」

「それを試してる」

「死ぬはずだった人。私も含まれるのかな?」

「確認するには時間がかかるよ」

「一人ぐらい引っかかるかもって思ってた。その充実感があるから生きてるよ。今の所」

両者は割と共依存関係だと思える。


もちろん、作品には人に影響を与える力はある。しかし、「自分の作品」には、自殺しそうな人を思いとどまらせ、回復させるほどの効果はない。あくまでそういう人をひっかけることができたというだけだ。

だから、主人公は、せっかく彼女が自分のところに来たのだから、彼女という人間と一緒にいて、彼女のことをもっと理解しよう、助けてみようとすることになる。

しかしこれは、健常者が上の立場から障害者に施すような簡単なものではない。彼女の強烈な「個性」を主人公が受け止めきれなければ、主人公側が壊される。

そういう戦いみたいな関係が続いていくことになる。



そんなわけで「リストカットする少女」には興味がない私でも、ダイレクトに「作家と読者」がぶつかりあう作品っていう意味で、先がとても興味深いと思う。

ぜひ読んでほしいなと思う。

*1:本当は6話めくらいからすでにかわいい仕草とか増えてるけど、実際はかなり怖いと思う