この夜が明けるまであと百万の祈り

とあるマンガ好きの備忘録です。私が元気づけられた出来事や作品について少しでも共有できたら嬉しいです

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他に何も持たなくても「人間であること」を捨てない限りは「無敵の人」とは違うと胸を張っていい

「マトリズム」の2巻を読んだ時、最後の一絞りの「人間であること」って言う表現が心に残った。

俺は麻薬ですべてを失う人間を山程見てきた。どいつもこいつも「自分には失うものなんてなにもない」と思っていたような連中だ。そんな連中から最後の一絞りの「人間であること」さえ奪う。それが麻薬だ。もう一度いう。お前は幸運だった。

お前は何もかもわかっていた。しかしそれでもなお、ありもしないポーチの中身が欲しくてほしくて、のこのこ舞い戻ってきた。そして、それこそがシャブの恐ろしさだ。

最近の「無敵の人」という言葉の使い方について

無敵の人、というジャーゴンがある。これ自体はネットではだいぶ前からあったが、最近意味が変化しつつ有る。もともとは「ネットの議論において絶対に負けを認めようとしない人」という感じで「行動や態度」を表す言葉であったはずだ。しかし、最近は、この言葉を、面白半分に広め、社会の分断やら新しい差別を煽ろうとしてる人が増えてきたように思う。

つまり、「ロスジェネ」や「生活の溜めや支え、寄る辺がない」人たちのことを、「キモくて金のないおっさん」というワードを経由して、雑に、あるいは意図的に「無敵の人」に繋げて語ろうとする人たちが増えてきつつあるように思う。マスメディアにこの言葉が登場してきたらその扱いに注意すべきだろう。



個人的にはこの雑な混同は極めて有害な行為であると感じている。

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私は前々から繰り返し言ってるけど「部分的に正しい」意見っていうのは、完全に間違っている意見よりも害があり、特に「事実として間違ったことは言ってない」にせよ「アプローチの方法が間違っている」ものはとても危険だと考えている。

KoshianXさんの発言やまとめは、犯罪や問題行動を起こす要因を自分と切り離したいという公平世界仮説のトラップに見事にハマっているように私には見える。「問題行動を起こすのは(自分と関係ない)◯◯◯が原因だ」という論を立てて、問題を自分から切り離そうとしているようにこちらからは見えてしまう。そうでないにしても、問題行動の原因を単純に考えすぎであることは間違いないだろう。 KoshianXさんとしては、「単に事実を指摘したであり、因果関係を語ったものではない」というのかもしれないが、これはポリコレ云々の文脈ではなく、デリカシーの話として不満は感じるところだ。

同様にこういう感じの煽りもある。

なんというか、とにかく世界を単純化し、なんでもゴルゴム的ななにかのせいにしないと落ち着かない人というのは、二次ヲタなんかよりもはるかに現実が見えていないというか、現実を見ることを拒否しているわけで大変迷惑だと思う。


この二つに共通するアプローチは「発達障害者には犯罪を犯す人が多い」という偏見と共通のものを感じる。ちなみにこれについては「発達障害支援の実際」のp85に置いて明確に否定されている。詳しくは読んで確認してもらいたいが、調査結果を受けての以下の文章が重要だ。

発達障害支援の実際 診療の基本から多様な困難事例への対応まで

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いずれにしても、発達障害者が犯罪を行うリスクが高いか低いか、あるいは、もっと広義の「問題行動」が多いかどうかを議論しても、臨床的な有用性は低い。より重要なのは、発達障害者が犯罪を実行したり対応困難な状態に至らないように配慮することであろう
臨床経験からは、ASDの人の多くは反社会的行為に関心がなく、むしろルールに固執する。しかしながら、不安や恐怖は強く感じることがあるし非社会的な面はある。触法行為や問題行動は、様々な要素が絡み合って生じることが多く、いじめや虐待を減らすことで要素を減らしていくことができる。

「ロスジェネ」とか「金のないキモいおっさん」と、犯罪者や「無敵の人」の相関について確固たるデータもないのにそれを結びつけるような雑な煽りをしてはいけないと思う。

自分の苦しみを語るために無敵の人を使おうとするのは今すぐやめてほしい

この手の「レッテル」を貼る人が目立つ一方、なんかはてなで受け入れられがちだが、私は逆のパターンにも問題が有ると思う。たとえば最近ha◯ex氏を殺害した犯人に過剰に感情移入したり同調して、彼と自分の共通点を見出して「私もこうなっていたかもしれない」などと言う人達だ。どちらかというとこちらのほうが深刻だろう。 ウェルテル効果じゃないんだから、こういうことを言わないで欲しい。
あなたたちは、自分が挙げたようなの共通点があったら犯罪を犯すのか?他の人もそういう理由で人を殺すと思ってるの?そういう理由さえあれば無敵の人になるの? 違うでしょ?グラデーションとかスペクトラムの話なんて言われなくてもわかってる。それでも「殺すと殺さないの間には明確な壁がある」でしょ? その境界すらそんなにぼんやりしてるの?違うでしょ?

この境界線すら見えないというのなら、なおさら、一度立ち止まってちゃんと考えたほうがいいと思う。自分が何をいってるのかわかってない。自分の尊厳を軽く見すぎだ。あなたはそんなに軽い存在ではない。



「無敵の人」と「様々な貧困に苦しんでる人」は、明確に違ったアプローチで論じられるべきだと思う

「キモくて金のないおっさん」や「貧困に苦しむ子供、シングルマザー」みたいな人たちはたくさんいる。しかしほとんどの人は犯罪をおかさない。同情するくらいならいいが、同調してはいけない。むしろ「なぜ自分は殺人を犯さないのか」をしっかり認識しておいたほうがいいと思う。

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つまり「自分にはなにもない」と思っている人でも、自分を社会に存在する人間たらしめるなにかが残っているということだ。それを認識して、誇りを持つべきだと思う。それとも、そういうものは邪魔だと思うのだろうか?私は自分が落ちぶれた存在であることを自覚してるけど、それでも「人間として最低限守るべきライン」みたいなものは意識してる。

「人間であること」を放棄させるような致命的なものからだけは、何が何でも遠ざかるようにしたほうがいいと思う。


マンガ「マトリズム」について

冒頭で言葉を引用した「マトリズム」は、麻薬取締官を主人公にした作品。普通の人が麻薬に取り込まれていく様が描かれている。マンガとしては、キャラクターのかき分けが弱く、コマが大きい上に単調なため、1冊あたりの中身が薄すぎると思うのですが、描かれている内容自体は非常に興味深いです。

巻き込まれるというのは、単に被害者になるだけではない。むしろ加害者になることが恐ろしい。薬にハマり、金を大量に使い、金がなくなって売人のようなことを始めたりする。また、一度嵌ると、色んな意味で抜け出すことが難しいことも語られている。薬から抜け出そうと「自助会」に参加したら、そこにも売人がやってくるエピソードは恐ろしい。

厚生労働省地方厚生局麻薬取締部 「麻薬取締官」ウェブサイト
麻薬取締官 - Wikipedia

・2016年現在で296人。主に薬学部出身者がなる。

厚生労働省の職員であり、厚生労働省の地方支分部局である地方厚生局に設置されている麻薬取締部に配属されている。

麻薬及び向精神薬取締法により、特別司法警察職員としての権限が与えられている。危険な職務であるため、司法警察員としての職務を遂行する場合に限り、「小型武器での武装」(拳銃・特殊警棒等の携帯)が認められている。

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