評価★★★★★(ブログの読者の人全員に読んで欲しいです。お願いだから一度チェックしてみてください)
私は戸田誠ニさんという作家さんが、前々からずっと好きです。
初の長編作品ということで、今まで読んできた作品の集大成のような作品であり、大変素晴らしかったです。
今までこの作家さんを知らなかった、という人にこそ是非読んでもらいたい。全力でおすすめします。
egg star (Next comics) | ||||
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私にとっての戸田誠ニさんの作品とは
この人の作品は、今まですべて短編集。
いろんな短編で、辛い境遇や精神状態に陥ってる人物が登場し彼らに対して、「お前の気持ちはわかる」「つらかったな」「頑張れよ」といったいろんなメッセージをまっすぐ伝えてきた。
言ってみればただそれだけの作品であるが、何作品かの短編が、他のどんな長編作品よりも私の心に刺さる。そんな作者さんだった。
この人の作品は「とにかく頑張ろう」とか「世界は平等」みたいな漠然とした前向きなことは言わない。「無理なものは無理」「今さら自分は周りの人間と同じようには出来ない」であるという現実から逃げない。
その上で「これだけは守ろう」「つらいという気持ちを表に出してみよう」「3ヶ月だけ頑張ろう。それでダメなら諦めてもいい」「他の人は無理でもあの人だけは信じよう」と小さな一歩を踏み出すきっかけの部分を語る。
でも、本当のところは、「そこから抜けた本人でさえ、なぜ、『社会復帰(とされているもの)』ができたのか、よくわからない。いつのまにか、なんとなくそうなっていた」ということが、多いのかもしれません。それとも、岡田さんは、あえて、「それを書かなかった」のだろうか?もしかしたら、不登校や引きこもりと現在の自分は「地続き」でしかなくて、「脱出した」という感覚を持っているわけじゃないのかな。
戸田誠ニさんは、まさにこの部分を描いていると言って良い。抜け出す最中には必死過ぎて本人たちには考える余裕がなく、抜け出した後には美化されたり忘れてしまったりする、「その人にとっての小さな、それでいて決定的な運命の瞬間」を描いている。私はそう思ってる。そういうわけで、別に義務でもなんでもないのだけれど、上の記事を書かれたid:fujiponさんにはぜひ読んでみて欲しいと思います。
「egg star」が初の長編作品であることの意味について
今までの作品も私にとっては素晴らしい傑作ばかりです。
しかし今までは、彼の作品は「読む人が読めばすごく刺さる」=「登場人物とシンクロできるような人は深くメッセージを受け取れる」という作品であったものの、登場人物の理解は、あくまで読み手に依存するところがあったのではないかと思う。登場人物と自分と似ているところがあるからこそ深く感情移入し、作品のメッセージに心打たれる、そういうところがあった。
しかし、この作品は初の長編ということで2つの意味で短編から進化している。
1つはキャラクターの掘り下げ。最初からキャラクターを作り、様々なイベントを経て、ちゃんと登場人物と読者が体験を共有した状態で、いつもの戸田誠ニの持ち味である運命の瞬間を描いているので、誰にでも戸田誠ニの本分を味わうことができるようになっている。普段から戸田政ニの作品を読んでる人も、描写の積み重ねによっていつもより強い感情を味わうことができる。
二つ目は人生を一場面だけでなく長いスパンを持って見ることによって初めて分かることを描いている点。短編集では1つの人物に対して1つの「運命の瞬間」を描くだけだ。しかしこの作品は、主人公が何度もそういうイベントを体験する。人間は、まっすぐ生きていれば、何度でも……とはいわないまでも複数回そういうチャンスが訪れる可能性があるのだ、ということが伝わる作品になっている。
そういう意味で、今まで戸田誠ニ作品を知らなかった人にも、すでに戸田誠ニ作品を好きだった人にも、どちらにもそれぞれオススメできるポイントがある素晴らしい作品になっています。
実際に読んでみれば誰もが「読んで良かった」と思えるような作品だと胸を張って言えます。
特に、大学生~社会人3年目くらいの人なら、絶対今のうちに読んでおいたほうがいいです。そのくらいの人たちは、単に面白いだけでなく得るものも一番大きいと思ってます。
星の王子さま - The Little Prince【講談社英語文庫】 | ||||
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あえて書く必要はないかもしれませんが、egg starの元ネタは「星の王子さま」です。星の王子さま好きな人にもおすすめしておきます。