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「若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!」感想

最近、「小説家になろう」原作でコミカライズされたマンガを読むのが私のマイブームになってます。今で60作品くらい読みました。だいたいWebで無料で読めるので、帰宅途中に疲れて他に何もする気が起きないときの暇つぶしにはとても便利。

そんな中、こちらは三沢さんから直で紹介されたので読んでみました。

こちらから無料で読めますのでどうぞ。

うん、私も結構この作品好きかもしれません。「ゆらぎ荘の幽奈」さんが好きな人ならおすすめかも。

2話まではかなり微妙だけど、そこまでの設定について割り切れるならまぁ悪くないかと。

森田季節さんについて

原作者の森田季節さんについてはラノベ時代からちょくちょく読んでまして。私は特に「エトランゼのすべて」という作品がすごい好きなのだけれど、中高生よりちょっと年上の「大学生」あたりの感覚で日常を描くのが得意な作家さんという印象です。
特に大きなイベントや切迫した事態が起きるということは少なく、自分たちと似ていて、それでいてちょっと変わった人たちの日常をまったり描いていて、じんわり面白いという感じ。

エトランゼのすべて (星海社FICTIONS)

森田 季節 講談社 2011-10-14
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そんな作家さんなので、この「若者の黒魔法離れ〰️」という作品も表紙やタイトルからでは想像しにくいと思いますが人情まったり系ですね。


ホワイト企業」を描くということについて

この作品の素晴らしいところは、あとで紹介する三沢さんの記事が上手にまとめてくれているので、私はちょっと補足的な話をします。


内容はタイトルの通り。

コミュ障で就職活動に苦戦していた主人公が、仕方なく不人気業界である黒魔法業界の門を叩いたら、そこで才能があることが判明し、高待遇で迎えられて、まったり幸せなホワイト企業ライフを楽しむというお話。

これに似たような事例はもちろん現実でもあります。

HUAWEIの新卒採用が初任給40万だったとか、大学教授が海外の大学に赴任したらいきなり給料UPしてホワイトになったという話があります。
・実際に人がやりたがらない清掃業者やビルメンテの大手が実はかなり高待遇であるというのも知っている。
・ブラックと名高いSI業界でも、らくからちゃさんの勤めておられる会社のように社長の営業力や社内育成に優れた企業というのはある。集中的に仕事をする代わりに残業を減らし、残業なし手当まで支給するSCSKや未来工業みたいな企業は有名だ。そういう「就活生には知られていないが優良な企業」は実は結構ある。
ど田舎の山村で葉っぱを売る人たちが、工夫次第で年収最高2000万を実現した事例というように、工夫次第で高収入を実現している人達もいる。
「王様達のバイキング」のように、才能があるが技術力に特化した人間が起業家に見出されてヒャッハーする作品もある。

現実的にも十分有り得る話なのだから、きっちりそのあたりについて納得できる設定を描こうと思えば描けるかなと。また、「小説家になろう」は「異世界転生」や「チート」という形で、設定のミッシングリンクを埋めることも可能。

しかし、この作品はそのあたりが中途半端に思える。違和感を感じた点を3つほど挙げます。


(1)主人公は冒頭では黒魔法業界を忌み嫌っている。「学校の成績は優秀」とはいえ、普通に考えたら当然その業界でやっていけるレベルの技術など習得してるとは思えない。しかしなぜか面接を受けてぶっつけ本番で召喚やってみたらいきなり才能を発揮して高給でスカウトされるってなんだそれ・・・。「日本語だったらコミュ障の人間が、今まで一度も勉強したことがない(あるいは学校のカリキュラムで入門レベルだけ履修した程度の)英語をいきなりペラペラ喋りだす」くらいの違和感がある。そんな才能あるなら最初から気づくだろ、と。


(2)また、もし黒魔法業界が本当に高給ならば、知る人こそ少なくてもその業界を志してる人間は主人公以外にも存在はしているはずであり、目指してる人はそこにターゲットを絞って最初からコツコツ勉強しているはずなのだが。そういうのを差し置いて主人公がいきなり抜擢される展開は流石にちょっと。主人公以外に男がいないギャルゲー世界観として割り切れば全然問題なく楽しめますが、まさか「現実的な作品」として受け取ってはいないよね?


(3)そして、主人公がいざ黒魔法業界で高給かつホワイトであることが知られたら、いつの間にか周りの人間が「くそっ俺も黒魔法を習っておけば」って言い出すのだけれど、主人公が内定するまではなかった「参入障壁」がいきなり後付で登場しているのはちょっと違和感がある。「過去からの黒魔術業界に対する偏見」や「会社の知名度の低さ」だけが壁だったのに、主人公が就職したらその高待遇はすぐに学校の話題になる描写は……。そんなすぐ広まるなら、なんで今まで誰もそのことを知らなかったのかと。また、その後のバトルシーンで描かれる「黒魔術と白魔術」の違いが全くわからないため、今からでも白魔術勉強してきた人たち普通に黒魔術業界に就職できるんじゃないの?って思ってしまう。


他にも、

・なぜ主人公が就職したこの会社だけが同業他社を排して「競争・価格優位性」を維持できてるの

とかいろいろツッコミたいところがある。

冒頭でも述べたように、このあたりの説明をすっとばすために「異世界転生」とか「チート付与」を使えばよかったと思うんだけどそれ一切使わずに、この作品の設定で納得しろと言われても正直きついです。


実際、この作品、他にも主人公と同じように努力してきた人が出てくるのだけど彼のセリフは

「秀才として突然の天才発覚は我慢ならない!」

そりゃそうだろ、と。結局そういうことなんだよね。この作品は「主人公が(「実は異世界転生者」とかの理由付一切ないけど)チートクラスの天才でした」「主人公の就職した会社が、参入障壁が全くない業務をやっているにもかかわらずなぜかオンリーワンの競争優位性を持っている」という2点で成り立ってる。もちろん作者はこれについて自覚的であり、だからこそ早い段階でこの秀才くんを問答無用で才能で叩き潰して、この作品はそういう「天才が天才ゆえにちやほやされる話」として描いているんだよという宣言を早々に済ませている。

このあたりのガバガバ設定さえ了解できれば、3話以降は人情ものマンガとして面白いよ

というわけで、最高傑作!とか現実の素晴らしいメタファーとか言われるとそれはどうだろう、と待ったをかけざるを得ないところです。コレより面白いなろう原作のコミカライズはたくさんあるわ、ちょっとしか読んでないのに大袈裟に誉めるの他の作品に失礼やろ、と言いたくなりますが。

でも何度も言ってるように、悪くはないし私は結構好きです。この作品を無理に特別扱いせず、俺ツエーやご都合主義てんこ盛りな作品として割り切って読めばなんの問題もない。少なくとも作者はそう割りきって書いてる。(「お前のご奉仕はその程度か?」の作者さんだしね)

ハードルさえ上げなければ、同原作者の「スライム倒して300年~」と同じように、人情ほわほわ癒し系マンガとしてとても楽しめる作品だと思います。この「楽しめる点」については上記の三沢さんの記事が余すところなく語ってくれているので参考にしてください。

三沢さんの記事は好き嫌いの傾けかたがうまいので、すごく面白そうな作品に見えます。この紹介のしかたは見習いたい。

あと、これは本当に個人的な意見なんですが

この作品に関して言えばあんまりエロ要素いらないと思う。

エロ要素だからダメって言ってるわけじゃないし、エロ要素は単体で抜き出せばとてもレベルが高いと思います。このコミカライズ担当されてるかたのエロマンガ買ってみたいと思うほど。

しかし、この作品に関してはエロ要素が作品のテーマにあんまりあってない気がする。本当に「とりあえずエロ入れておいたほうが人気でるから入れました」って感じでむしろ話の邪魔してる。このエロ要素のおかげでマンガとしてのテンポが非常に悪くなっていると思う。表紙からしてもエロ推しになってて、この作品の良さがあんまり伝わらんのはちょっともったいない。(というか表紙の絵だけ見たらあんまりマンガうまく見えないよね?実際はこのコミカライズ担当してる人はとてもうまい。)

すなおに「ほんわか癒し系」で行ってくれたほうが作品の完成度は高かったと思うんだけどね。そのあたりは「小説家になろう」の現在の事情とか関係してるのかもしれませんが私にはよくわかりません。この作品をこういう売り出し方してるのって、なんか業界として大丈夫かって思ってしまうかな・・・。

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