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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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papa told meが「私にとっての」フェミニズムの原点なのだと思う

私はこの作品で描かれているフェミニズムは現在においては十分ではないということは理解しています。

 

この作品世界はジェンダーについては今読んでも十分通用する要素が描かれている一方で、セックスの領域はほとんど扱っていません。

 

それでも、この作品は私のフェミニズム的発想の原点であり、今でも基準点・参照点としての一つです。

 

 

まずはなんと言っても

 

「わたしはね、わたしのために、かわいいの」という言葉に代表されるような、自主性を尊重する姿勢や、

 

「文句言うなよ。せっかくもらったのに。
 まあちょっと…だいぶ派手な服だけど、かわいい
 ちせ、かわいいの好きだろ?」

「お父さん、基本的に間違ってる。お洋服はたかがな問題じゃないよ。
 それに、私が思ってる"かわいい"にはちゃんと意味があるの。なんでもいいわけじゃないの。
 ひとつはお馬鹿なかわいい服で、もひとつはかっこよくてかわいい服。
 おバカなかわいい服は、人からかわいいって思ってもらうためだけの服。
 かっこよくてかわいいのは、自分でそれがかわいいと思うから着る服。
 全然違うんだよ」

「ふーん…」

「私は絶対かっこよくてかわいい服がいいんだもん
 世界中の人が"へん"っていっても、私がかわいいって思ったらそれを着るんだ。
 わかった?」

「うん…」

「つまりデザインとかだけじゃなくて、いつもそういう基準を持って
 服を選んだり着たりすること事態が"かっこいい"になるのよね」

 

 

 

 

女性がパンツスーツ姿で出勤することが当たり前になっていった過程

 

 

tyoshiki.hatenadiary.com

 

「うちの会社って、昔結構保守的でさ。パンツスーツとか禁止だったのよ。」

「禁止!?」

「まぁ明確に規定があるわけじゃないんだけど暗黙の了解って感じでね。
 でも私はその雰囲気に気づかなかったのよね。そんなゆとりなかったの。すごく忙しい時期で
 パンツの方が雨後起きやすいかなって思っただけなの。そしたらある日廊下で呼び止められて」

「"ちょっと君、その格好はねぇ、どうかなぁ
 もっと女性らしいスタイルが出来ないものかなぁ
 君たちには対外的にも女性の優しさ柔らかさをアピールする義務があるんだよ"
 おおかたこんなところでしょ」

「うん、そう。それから会社がギスギスしてくる、なんて言われた。
 じゃあどんな格好がよろしんでしょうかって言って彼の指差す方を見たら
 いかにもおじょーちゃまなパステルのチャラチャラした
 "私ったらちょっと社会見学のつもりでおつとめしてるの"っぽいスーツ姿があって」

「"そりゃ結局あんたの趣味なんじゃないかーっ"とキレたわけね」

「キレないわよ。ただ必死にローテーションを工夫してその後一ヶ月パンツで通したの」

「…それはキレてますよ」

「結局それが既成事実になって、みんなこだわりが無くなったのよね」

「ちょうど社長や役員の大幅な交代とも重なったし、雰囲気も変わったの」

「私知りませんでした、チーフって、やっぱりすごい」

「あのね~こういうことですごいって言われても嬉しいやら哀しいやら」

「百合子、多分自分で思ってるより大きなことなのよ。
 長いことみんななんの根拠も無い脅迫を受けてたようなものなんだから
 "君たちは見られるものとしてここにあるんだ"ってね。
 じゃ、見てるのは会社の目か、神サマの目かと思ってたら、ただのオヤジの目でした
 これをはっきりさせただけでも功労賞もの。服の問題を超えてるよ。社史に載るかも」

「いやだー」

 

 

 

 

など、主人公の知世や、知世周りの強くて聡明な大人の女性が、今よりずっと女性の社会進出が遅れている社会でも自分らしく生きる姿が描かれています。このあたりはエンパワーメントに満ちている。ただし、これだけだと、ベティ・フリーダンが批判されたように、エリート女性だけのフェミニズムになってしまいます。

 

 

そこで逆に知世の周りの友達(大人含む)を通じて、人の弱さというかフラジャイルな感覚に、とても優しい視線を向けています。

 

男らしさ、女らしさにこだわらなくていいんだと主張したり、今よりずっと認められる生き方が狭かった時代に、あえて自分の夢を追っている人々を肯定的に描いたりもしています。

 

知世のいとこの子が、マッチョな思想を押し付けようとする父親に、「お父さんとは違うけど、これが、僕の思う強さだよ」と笑顔で胸を張って答えるシーンとか、父親に捨てられた娘が、間違いだとわかっていても父親に執着し続ける姿を描いている回は今でもすごく好きです。

 

 

また、この作品を見ていると、今でも色々問題はあっても、その頃より着実に問題は前進していて、人々は自由になってきていると思います。

 

そんなわけで、大学の1年、教養学部においてジェンダーという概念に触れたとき、ああ、あの作品で言ってたのってそういうことだったんだな、と連想したものです。

https://mangapedia.com/Papatoldme-2dzin87fc

 

なので、この作品で描かれるバランス感覚が、私の参照点なのです。

 

 

もちろんこの作品には先程も述べたように、性的な要素も、(チセの周りには)経済的な貧困などの泥臭い問題も全くと言ってよいほどなく、ひたすらにおとぎ話のような幻想的な空気で包まれている優しいおとぎ話の世界なので、これをもとに社会の方を語るつもりはないです。

 

それでも登場人物たちの感性は十分参考になると思っています。

 

この作品にはフェミニストも登場しますが本当に格好いい人です。というか、もともと大学に入るまではフェミニストというのは男性がなるものだと思っていました。

 

フェミニストって、理論ではなく、日常における実践が大事だと思ってます。そうしているうちにますます相手への敬意が育っていくものではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

以下は蛇足です。

ネットでみかけるフェミニズムって、この実践が見せられないせいか理論ばかりが先鋭化して言ってる気がしてつらいんですよね。ちゃんと学術的な議論の前提を身に着けている人たちによるアカデミズムの世界でやるならそれでもいいのですが、しろうと理論の応酬は完全に不毛オブ不毛です。

 

結局のところ、承認欲求やフォロワー獲得のために、セルフまとめブログ化して、デマを厭わず積極的に男女を分断しようとする人ばかりが目立っています。ぶっちゃけ評価がやらおんとかはちまと同じレベルの人がゴロゴロいます。

(もちろんそれに輪をかけてアンチフェミの人が嫌いであることは言うまでもありません。いま現状、フェミニズム関連の話はゲハと同じレベルの低品質になっています。)

 

学術面で頑張っている人以外で、ネットでは、古くて不十分と言われる本作品を読むよりも有意義なフェミニズム活動をしている人を見たことがないと言ってもほとんど過言ではないと思います。

 

tyoshiki.hatenadiary.com

 

「どうしたんだ、知世?」
「眠れないの。眠ろうとするとあの(お父さんの悪口を言ってたやつの)やーな大笑い声が浮かんできてムカムカしちゃうの」
「困ったなぁ」
「私のハートはもういいやと思うんだけど、私のプライドは許さないの。…プライドってめんどくさいものだね」
「でもお父さんはプライドの高い知世がいいと思うよ。」
「え?」
プライドっていうのは、自分がいちばんだって偉そうにすることでもなく傲慢な態度を取ることでもなくてたとえば知世が何十億人の人たちの中でほかならぬ知世であるために必要なものだと思うんだ。
「IDカードみたいな?」
「そうだな、でももっと重たい。旅行かばんのようなものかな。すべての人があらかじめかならず1つずつ持ってる。
 型はそれぞれ違っていても重さは皆同じなんだ。女の子も男の子も、大人も、子供も。
 持って歩くのはなかなか大変だ。だからこんなものは邪魔だと思ったら捨ててしまってもいいわけだ。それがその人の意思ならね。
 でも中にはとんでもないバカなおせっかいがいる。"君は小さな女の子だから、こんな重いカバンなんかもっちゃいけないんだよ。必要ないんだよ"なんていうやつだ。」
「はりたおしていいのね?」
「うーん、、、まぁ」
「お墨付きがでたわ」
「それから、みんなのカバンをまとめて持ってあげようという人も出てくる。大きな一つの荷物にしてしまおうってね。それは楽ちんだけど、とてもこわいことだ。どこに運ばれるかわからないんだから。
 やっぱり自分のカバンは自分一人で持たなきゃならないんだ。だから、知世のカバンをお父さんが持ってあげることもできない。
 お父さんがやれるのはせいぜい知世がカバンの重さに負けないようにたくさんご飯を作ることくらいだな」
「やっぱり腕力よね」
「精神的な、ね」
「ムカつくことがあったら、ちょっと考えてみるといいんだよ。どうしてそんな気持ちになるのか。それは自分のことを知る手立てになる」
「キーっとなるのも無駄じゃないんだね」
「そう、その上でやっぱり言うべきことがあると思ったら冷静に対処すること」
「それでもわかんない奴だったら、張り倒す!」
「……どうしていつも、そこに…」


……
………

「わかった!」
「え?」
「お父さんを悪く言われると自分のことよりすごく頭にくるのは、お父さんが一番大切なポイントにいるからだわ。知世が知世であるための。
 そう思えば、重いカバンもへっちゃらだわ」

 

 

私は、何度も言っている通り、フェミニズムそのものには敬意を持っています。でもそれはゲームにおいてゲーム開発者や任天堂を尊敬しているということです。ゲハ戦争をしている人には軽蔑しか感じないように、ネットのフェミニズムには全く敬意を持っていません。

 

私はもうネットにおけるフェミニズム関連の言説には心底辟易していますので、そんなものを読むくらいだったら、ちゃんと書籍でフェミニズムの本を読むか、古臭いとか現実的でないと揶揄されているこの作品を読み返す方を選びます。

 

 

関連作品としてこれも好き。

tyoshiki.hatenadiary.com